short
蓋をする
* * *
ガンガンと激しく痛む頭のせいで、目が覚めた。
「うっ…」
重い瞼を開けると、其処はよく知った友人の家の寝室。痛む頭に小さく呻き声を漏らすと、友人の心配そうな顔が此方を覗き込んだ。
「…依月、大丈夫か?」
「ぅ、大丈夫、じゃない…。凄い頭痛い……」
ズキズキというよりは、内側からガンガンと割られそうな種類の痛みだ。呑み会の翌朝体調が悪くなるなんていつもの事だけど、今朝はその中でもとりわけ酷い。
ベッドから起き上がれない僕に惣は心配そうに眉を下げると、「水と二日酔いの薬を持って来る」と寝室を出て行った。
「……、覚えてない、よな」
…部屋を出る前に一言、本当に小さく呟いた声が、痛む頭の中で妙に耳に残る。
その呟きは本当に小さな声で、惣は僕がそれを聞いていたなんて思っていないのかもしれない。けれど、最悪に近い体調の中、それを拾い上げた聴覚だけは嫌に明瞭で。
「……?」
激烈な頭痛の中、昨夜の事をぼんやりと思い返す。
今現在の体調は最悪だが、昨夜は随分と気分が良かった、ような気がする。
僕はお酒に弱い方だが、潰れる前、ある程度呑んでいる時は陽気になるタイプである。慣れている相手に対して、やたら懐っこくなる、というのは圭也の評だ。
記憶はぼんやりとしているが、昨夜は許容量を越すまでは呑んでいない。記憶を引きずり出そうとすれば、一応なんとか順を追って思い出せる。確か、圭也は途中で誰かに呼び出されて抜けて、惣は酔っ払った僕を「もう寝ろ」と寝室に運んで……。
「…あ…?」
僕の身体を抱き上げた体温が、とても心地が好かった。いつも僕にベッドを譲ってしまう彼に、申し訳なさや小さな不満を抱いていた。
惣となら、一緒に眠ってもいいのに。なんて、思っていたけれど口にも態度にも出さなかった思いは、アルコールによって態度に出される。
じわじわと、肌に熱が上る。イケナイ事を、思い出しているような気がする。無意識に、指が自分の唇に触れた。
――惣と、キスをした。二度目に至っては、自分から。
……いや、キスどころじゃない。順々に思い出される情景は、気怠い躰を熱くした。
『…依月』
僕の名前を呼ぶ、熱く切なげな声。耳の奥に残るその響きに、僕の躰は更に反応を示した。
流石に最初から最後まであの行為を思い出した訳ではないけれど、何をしたのかという事は分かる。
あの行為は、到底“友達がする”行為じゃない。
気付いたその瞬間に、僕を支配したのは恐怖だった。惣と、“友達でいられなくなる”恐怖。嫌悪も恨みもない、ただ、これを覚えていたら惣とは友達ではいられない。
≪ ≫
[戻る]
無料HPエムペ!