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short
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ごくり、と喉が鳴る。

既に横になっている依月に腕を引かれてベッドに引き込まれたから、俺は今ちょうど彼の躰に乗り上げるような、組み敷くような体勢になってしまっている。

理性が、耳の奥でキリキリと音を立てて擦り切れていく気がした。……それはきっと、ただの耳鳴りなのだろうけど。


「……惣?」
「…、離せ、依月」


呑み込まれそうになる理性を保つ為にも、些か強い口調で依月に言う。

俺の手首を掴んだ依月は、眉を下げて少し悲しそうな顔をした。


「……いや?」


嫌、というよりは、状況が美味しすぎて理性を保てる自信が全くないのだ。

理性を手放してもいいのならば、喜んで、だが。

アルコールに侵された思考が、危うい方向に傾き始める。俺はため息を吐いて、宥めるように依月の頭を撫でた。


「嫌じゃないが…、依月の為にならない。いい子だから、お前は此処で一人で寝てろ」
「……」


拗ねたような瞳と、不満げに尖らせた桃色の唇。

これだけ酔っている、というかぐだぐだになっている依月なら、少しくらい触れても明日には全て忘れているだろうか。

…今、堪らなくその唇に触れたくなった。


「……惣」


拗ねたような舌足らずな口調で名前が呼ばれた刹那、脆い理性の境界線を越えた。


「んっ…」
「……」


掠めるように、触れるだけ。それだけで、満足するつもりだった。


「…ふっ…、惣」
「――!!」


動いたのは、依月の方だった。

酔っているのがすぐに分かるような、とろんと蕩けたチョコレート色の瞳で。離れようとした俺の後頭部に手を回して、唇を追ってまた重ねる。

思わず目を見開いた。至近距離まで迫った依月はしっかりと瞼は閉じており、微かに震える睫毛、左目の下の泣きぼくろが異常に色っぽい。

酒臭い、キス。けれど、それはお互い様だ。

依月がどういうつもりなのかは分からないが、そっちもその気なのならば、もう俺も我慢しなくても良いのだろうか。


「ん……、っ? ふ、は……」
「ん…っ」


触れるだけだった唇の奥、口腔内を探るように舌を差し入れる。

驚いたように依月の睫毛が震えたが、まだ瞼は開けないし、露骨に避けるような反応はない。

熱い口腔の中、微かにアルコールの味が残るその舌を捕まえて、絡める。深いキスをしながら、組み敷くような姿勢になった依月の腰を抱き寄せた。


「は……ふぅ」
「……依月」


名前を呼ぶと、ゆったりと瞼が持ち上がる。蕩けたチョコレートの瞳。嫌悪の色は、其処に無い。


(……拙い)


頭の片隅で思う。


(止まらない)


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