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short
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セインがこうして頼れる上級生は、ヘンリーだけしかいないというのも関係しているのだろうけど。

人見知りのコミュ症が何を、と思われそうだが、もう少し交遊関係を広げるべきなのだろうか。アカデミー入学から数ヶ月経ったが、まともな友人がアリアだけ、交流のある先輩はヘンリーだけというのもなかなか辛い。

別に、友人がいなくて寂しいという訳ではない。アリアにもヘンリーにも、何か不満がある訳ではない。ヘンリーには少し思う所があるが、…嫌ではない、から。


「……いつも、ごめんね」
「ん?」


不意に呟いたセインに、ページをなぞっていたヘンリーが緩く首を傾げる。

アリアは本に視線を落としたままなので、セインは隣にいるヘンリーを見上げた。


「いつもヘンリーに勉強見て貰ってるし…、迷惑、だったら言っていいから」
「…迷惑な訳がないでしょ」


深い蒼の瞳が、やや呆れたように細められる。

ページの上のなぞっていた指がするりとセインの頬をつつき、セインは少し困った顔でヘンリーを見返す。


「私が、セインを迷惑だと思う訳がないでしょ」
「……」


そう言って微笑むヘンリーに、何と言って返すべきなのだろうか。

頬をなぞっていた指が首筋を滑り落ち、鎖骨の窪みをなぞり始めるのに、くすぐったくなって身を捩る。


「私は、セインに頼って貰って嬉しいから。もっと甘えてくれていいんだよ?」
「……、もう充分、甘えてるよ」
「いや、まだ足りない」


言い切ったヘンリーの強い口調に、セインは戸惑いながらその綺麗な顔を見上げる。


「もっと、私だけに、頼ってくれればいいんだから」
「え……でも」
「いいんだよ」


するすると肌を滑る指がくすぐったいけれど、視線はヘンリーの真剣な表情から離せなかった。

そんなに、彼に頼って、甘えていいのだろうか。今だって充分、頼り過ぎていると思うのに。

戸惑うセインと、真剣に彼を口説くヘンリーを余所に、二人の正面で本を読んでいたアリアが本を閉じた。


「……、レポートは、明日まで」
「えっ、あっ」
「……。そうか、じゃあ早くやっちゃわないとね」


すっかり二人の世界を展開していた……いや、ヘンリーは故意にそうしていたのだろうが、そんな微妙な空気が霧散する。

せっせとペンを取るセインを見、アリアがヘンリーを見上げた。


「……邪魔、して悪いけど。でも、後にして、ね」
「……いや、私も悪かったね」


気を使ってくれたのか素で本に集中していたのか、途中口を挟まずにいてくれたのは良かったが。

苦笑するヘンリーに、セインは不思議そうに首を傾げた。


「…ヘンリー?」
「あ、どこか分からない?」
「あ、うん……」


レポート用紙を覗き込む二人を余所に、アリアは読み終わった本を返して来ようと席を立った。


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あきゅろす。
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