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俺の願いも虚しく、圭也は結局「……今から行きます」と頷いてから電話を切った。


「……行くのか」
「あー…、ごめん」


酔いが冷めたのか興が冷めたのか、苦笑いで頷く圭也。

その時の俺がどんな表情をしていたかなんて、分からない。腐れ縁の圭也相手に、行くな、だなんて縋りたくなったのは初めての経験だ。…微妙に屈辱だな。


「もう依月寝そうだし、此処かお前の部屋かで寝かせておけよ。で、お前は別部屋で寝て、朝まで持ちこたえろ」
「……そのつもりだ」


前回までの呑みでは、圭也を間に挟むか、彼が今言った通りの事をして何とか堪えていた。

俺は深い深いため息を吐くと、簡単に荷物をまとめてさっさとバイトに出掛けて行った圭也を見送った。いつもの事ながら、アイツはオンオフの切り替えが妙に早い。

俺がリビングに戻ると、依月はソファーで小さく寝息をたて始めていた。


「……んっ」


寝返りと共に漏れる、微かな声。アルコールで曖昧になった理性が、キリ、と細い悲鳴をあげる。

…圭也は此処か部屋かで寝かせろ、と言っていたが、堅いソファーよりはベッドの上だな。好きな相手だ。そういう所は気を遣うというか、優しくしたい。


「依月」
「…ん…」


意識が落ちているのか、呼びかけても反応は薄い。

俺はペットボトルに残っていた水をひと息に飲み干すと、ソファーにもたれかかっていた依月の躰を横抱きにして抱えた。

身長の割に細い依月だが、高校時代は一応運動部で鍛えていたとかで、薄いが全体的にしなやかに筋肉が付いている。柔らかさはあまりないし、その躰に女と思えるような要素は無い。


(……でも、俺は依月が好きだ)


そんな、女性には見えないような依月の躰にこそ、欲情する。

そんなギリギリな自分の思考を振り払うように首を振って、俺は依月を自分のベッドの上に下ろした。

閉じていた依月の瞼が、ゆっくりと持ち上がる。


「……惣?」
「…圭也はバイトで抜けた。お前もそろそろ限界だろ? もう寝ろ」


濡れた甘いチョコレート色の瞳が、とろんと俺を見上げる。

そんな瞳を見ていられなくて、手のひらで彼の瞼を覆った。が、不意にその手首を取られ、グイッと案外強い力で引き寄せられてギョッとする。


「依月!?」
「…ん、惣も一緒に……ベッドに」
「おいっ!?」


半分くらいは寝惚けているんじゃないかという様子の依月は、俺をベッドに引き込むように腕を引っ張った。


「惣、いつも僕に、ベッド譲っちゃうから。此処、惣の部屋なんだから……遠慮しなくて、いいんだよ?」
「っ…」


遠慮しているのは、お前の貞操と俺の理性にだ。

なんて言葉は、ふにゃりと蕩ける依月の表情の前に口に出す事は出来なかった。


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