short
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椅子を引いてセインの隣の席に腰を下ろすと、ヘンリーは小さく笑ってセインのキャラメル色の髪を撫でた。
「勉強ははかどってる?」
「……あんまり」
言いながらセインの手元を覗き込むヘンリーに、セインは渋い口調で首を振った。
本を読んでいたアリアが、ふと顔を上げて言う。
「…口ばっかり動かさないで、手、動かして」
「分かってるって……もう」
小さな少女とセインのやり取りに、ヘンリーがクスと笑った。
「アリア君は、課題終わってるの?」
「…セイが唸ってるうちに、もう」
「そう、偉いね」
和やかに笑うヘンリーとごく普通の調子で応えるアリアに、セインがきょとんと目を見張る。
「あ、れ……そんなに仲良かったっけ?」
アリアもセイン程ではないが、人見知りな方に入る性質だ。セインが見ている前でのヘンリーとアリアの接触は初めてではないが、以前はセイン自身がヘンリーと親しくなる前で、お互いには関心があまりない様子だったのに。
先日の二人のやり取りを知らないセインは首を傾げ、ヘンリーはクスリと唇を歪めた。
「…この前少しね。預かり物をした、って言ったでしょう?」
「あぁ、そういえば……」
レポートに使う辞書をアリアに借りたのだが、それが何故かヘンリー伝手にやってきた。
その時もセインは首を傾げたが、ヘンリーははぐらかすように笑うだけだった。
ぱらりと童話の本のページを捲るアリアが、ぽつりと言った。
「……やきもち、妬くの?」
「は?」
「……」
セインのカーマインの瞳がパチリと見開かれ、ヘンリーのウルトラマリンの瞳が静かに細められる。
やきもち。嫉妬。唐突にアリアの言った言葉の意味が呑み込めないセインは、無意識に頬を赤くした。
「な、何…?」
「違うなら……、分からないなら、別にいいよ」
セインが混乱しているのに構わず、アリアは一人頷いて勝手に会話を終わらせてしまう。
舌足らず気味な口調を抜きにしても、アリアは会話しづらいタイプである、と思う。見た目よりも遥かに頭の良いらしい彼女は、セインの理解を待ってくれないのだ。
戸惑いながら意識をまたページに戻してしまったアリアを見つめていると、持ったままになっていた本に隣から伸ばされた指先が触れた。
「…ヘンリー」
「何処が分からないの?」
「あ、このページの……」
言いながら、図書館の書架から持ち出した参考書を捲る。
こうしてヘンリーに勉強を見てもらう事が、最早セインにとって当たり前になってしまっている。呪文理論は苦手科目なので、彼が色々教えてくれるのが非常に助かってはいるのだが。
(……なんだか頼り過ぎてる、かなぁ)
13/4/12
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