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short
セインとヘンリー Y

「……もうやだ、呪文理論なんて滅べばいいのに……」


アカデミーの空中図書館。分厚い参考書を前に、セインはぐったりと崩れ落ちながらぼやいた。

彼の正面でレポートにペンを走らせていたアリアは、そんな彼を見てぽつりと答える。


「…もう、半分くらいは滅んでる」


正しくは、衰退しつつある魔術の形態である、と言った方が良いだろうか。

現代での魔法の主流は、頭の中で術式を編み上げ具現化するというものだ。呪文を詠唱し術を行使する者も居ない訳ではないが、アカデミーの演習では専ら前者を推奨される。
術式の魔術は、発動するまで相手には何の術を使おうとしているか分からないのが利点なのだ。呪文の詠唱によって術の内容が大抵分かってしまう詠唱式の魔術は古いタイプの魔術とされ、好んで使う者は呪語の研究者くらいだ。

そんな現代では実際に使う者は数少なくなった「呪文」だが、現代でもアカデミーの必修科目として定められており、学生は三年次生までは卒業の為に嫌でも付き合っていかなくてはいけない科目の一つだ。

この科目は癖が強く、学生の間で好き嫌いがハッキリと別れる。見ての通りセインはこの科目が鬼のように嫌いなタイプで、対するアリアは比較的好きな科目の部類に入るらしい。羨ましい。


「こんなの覚えても、別に将来使わないじゃん…。それなら術式の練習だけしてればいいじゃん…、僕術式もそこまで得意じゃないけど」


それでも実践がある分、呪文理論よりはマシだ。

ぼやくセインに、ペンを置いたアリアが一言。


「…口より手、動かす」
「……ハイ」


頷いたセインは、渋々とペンを取った。パラパラと適当に参考書を捲りながら、頭を抱える。

セインがぐだぐだと愚痴っているうちにアリアは課題を終わらせてしまったらしく、勉強とは関係の無さそうな本を持って来て読んでいる。羨ましい。…否、今まで手を進めていなかったセインが悪いのだが。


「うーん……」
「……隣、いいかな?」
「あぁ、はいどうぞ……って、ヘンリー?」


不意にかかった言葉に反射的に返しかけ、聞き慣れたその声に顔を上げる。

周りを見れば席は全然空いていて、わざわざ彼らが居る机にやって来たらしいヘンリーはにこりと穏やかに笑う。


「裏庭を探しても居なかったから。探しちゃったよ」
「あぁ…、今日は課題やってたから」
「いつも穴の中でやってたじゃない」
「図書館の本、土で汚す訳にはいかないでしょ」


自分の教科書や参考書ならセインも気にしないのだが、流石に図書館の本を土で汚してはいけない。アカデミーの図書館には、貴重な文献も多いのだから。


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