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蕾の下に愛を埋めました(13年ホワイトデー)
※ 温室の二人でホワイトデー。時間軸が合わないですが、恋人未満の設定です。
いつの間にか習慣化していた常ならば、温室でお茶会をする時の茶菓子は祈が用意するものだ。
けれど、今日に限っては何故か「お前は持って来なくてもいい」と安岐に言われていて、祈は不思議に思いながらも久々に手ぶらで旧温室を訪れた。
「……北条先輩」
呼び掛ければ、咲きかけの薔薇に水をやっていた彼が振り返る。
応える声はないが、口元にはほんの僅かな笑みが浮かべられ、祈もはにかむように小さく笑みを返した。
失礼します、と短い挨拶もそこそこに、いつものウッドチェアに腰を下ろす。如雨露を置いた安岐の背が、温室の隅に設置された簡易コンロへ向かった。
お茶汲みの作業が気に入っているのか、安岐は祈にさせようとはしない。以前は幾度か手伝いましょうか、と声をかけたのだが、その度に却下されたので今は祈も大人しくお客様の立場に甘える事にしている。
「……あ、今日はハーブティーじゃないんですね」
「あぁ」
湯気と共に漂ってきた香りに、口を開く。
此処で出されるお茶と言えば、専らこの温室で育てられたハーブを使ったハーブティーなのだが、今日は普通の紅茶のようだ。
ハーブはどうしたのかな、なんて思っていれば、それは別の形でウッドテーブルの上に置かれた。
「ハーブのクッキー、ですか」
「あぁ」
細かく切ってあるハーブが生地に練り込まれているらしい、数種類のクッキーが小皿の上に。ハーブティーとハーブの茶菓子ではくどいと思ったから、お茶の方は普通のダージリンとなったようだ。
ティーカップをテーブルに置いた安岐が席に着くのを見て、祈は行儀良く手のひらを合わせた。
「いただきます」
「…あぁ」
まずは紅茶で口を潤してから、クッキーを一つ摘む。
サク、と小気味良い舌触りと、舌の上にふわりと広がるハーブの風味。初めて食べる味だが、とても美味しい。
「美味しいです……!」
「……そうか」
どこか安堵したような声で安岐が頷いたのには気付かず、祈は嬉々として二枚目のクッキーを摘んだ。
最初のものとは使われているハーブが違うようだが、此方も美味しい。
サクサクと美味しそうにクッキーを食べる祈を見て、安岐の表情が微かに緩んだ。クッキーの夢中の祈は、気付かないが。
二人のお茶会に、会話は案外少ない。けれど、その間に流れる時間は穏やかで優しく……かけがえのないものだ。
それは祈にとっても。そして、安岐にとっても。
優しく細められる安岐の瞳に、未だ祈は気付いていないけれど。
小皿に載っていたクッキーをあっという間にたいらげてしまった祈を見て、安岐は小さく笑い声を漏らす。
「…今日はよく食べるな」
「だって、このクッキーとっても美味しくて! これ、何処で買ったんですか?」
刻んだタイムの練り込まれたクッキーを摘みながら、祈は心なしかキラキラした瞳で問う。
そのタイムが今朝までこの温室に咲いていたものなのだと知れば、祈はその瞳が零れそうになる程に驚くのだろう。そんな様子を想像しながら、安岐は小さく笑って「さぁ?」とだけ応えた。
「だが、そんなに気に入ったんなら、また用意してやる」
「本当ですか?」
安岐の応えに一度はしょぼんとした祈だが、その言葉にぱっと表情を輝かせた。
安岐が頷くと、嬉しそうにはにかんでまたクッキーを摘む。
「……そうだ」
「?」
「……こっちは土産だ。持って帰れ」
とん、とテーブルの上に置いたのは小さなキャンディの小瓶。
それを見た祈はぱちくりと瞳を瞬かせて驚いた様子だったが、素直な彼は嬉しそうに安岐に笑いかけた。
「えっと……ありがとうございます」
「…あぁ」
此方こそ、とは安岐は口に出さないが。
愛用の如雨露の持ち手に結んだリボンに視線を走らせ、安岐は小さく笑う。
一ヶ月前、茶菓子と称して持ってきたチョコレートの箱に結ばれていたリボン。きちんとその意図を理解し、包装のリボンまで愛用しているのに、未だに祈は気付く様子がないのが少し残念だ。
「……其処も悪くはない、がな」
「え?」
きょとんとする祈に、安岐はただ意味有り気な微笑を返した。
春咲きの薔薇の花が、もうすぐ花開く頃だろう。
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久しぶり過ぎてもう二人ともどんなキャラだったか忘れましたね ← 13年ホワイトデーは、ラベンダーでお送りしましたw
本来3月だと三年生の北条先輩は卒業しちゃってると思うので、時間軸不明微パラレルでお送り致しました(笑) 実はお菓子作るのも得意な北条先輩ww
祈は一ヶ月前、こっそりチョコレートを渡しました。気付かれなくてもいいから渡すだけ……、って自己満足しちゃってるけど、バッチリバレてるしお返しもされてるのに気付かない祈(笑) 気付いてないのはキミだww
13/3/14
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