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「私は、ヘンリー=マクミラン。『白薔薇』なんて呼ばれるのは気恥ずかしいから、名前で呼んで貰えるかな?」
振り向いた少女の深緑の瞳が、ぱちりと瞬いた。
大粒のエメラルドががじっとヘンリーを見つめ、やがて唇を開く。
「……リー」
ヘンリー、だから『リー』だろうか。一風変わった呼び名だが、『白薔薇』よりはずっとマシだ。そう言えば、セインも彼女には『セイ』と変わった略称で呼ばれているのか。
許可の意を込めて頷くと、少女もこくんと頷いた。
「君の名前は?」
訊き返すと、大きなエメラルドの瞳がゆるりと瞬く。
彼女の名前は耳にした事はあったが、せっかくなので互いに“自己紹介”がしたかった。
「アリィは、アリア。アリア=ハーディー」
風クラスの一年次生アリア=ハーディーは、そう言って小さな頭をぺこりと下げた。
それに応えるようにヘンリーもその場で軽く会釈をした。
「じゃあ、また。アリア君。預かりものは、ちゃんとセインに渡しておくから」
「ん」
ひらひらと手を振ると、頷いた彼女は改めて踵を返した。
遠ざかって行く小さな砂を蹴る足音と……途中で聞こえたズルッボテッという無惨な音。
「…………」
もしかして、転んだのだろうか? 既に穴の中から目視出来る範囲ではなかったので、ヘンリーには確かめる事は出来なかったが。
ややして気を取り直してまた歩き出した足音が完全に聞こえなくなるまで遠ざかった後、余程眠りが深いのだろうか未だにすやすやと眠ったままのセインの頬に指をかけてヘンリーは笑う。
「変わってるけど、いいお友達がいるね、セイン」
ん……、と寝息を漏らす様子はヘンリーの言葉に応えているで小さな笑いが零れる。
「無駄だと分かっていても、少し妬くよ」
囁いて、抱き寄せたセインのこめかみにちゅっとキスをする。
もぞもぞと腕の中で小さな躰が身じろぐのを愛おしげに眺め、ヘンリーは彼の肩に顎を乗せて自分も瞼を閉じた。
「……早く、身も心も私だけのものになってね、セイン」
それは、背筋が凍るような冷たさを秘めた、甘い睦言。
何も知らずに捕食者の腕の中で眠るセインがそれを聞いていなくて、良かったというべきなのか不幸だというべきなのか。
どちらにせよ、腕の中という檻にセインを閉じ込めるヘンリーは、彼を逃がしてやるつもりなど欠片もなかった。
「……早くしないと、堪えきれなくなってしまうよ」
私の心は、こんなにも狭くて、君の事で溢れてしまいそうなのだから。
何も知らない少年は、胸の中に小さな感情を抱えたままただ眠る。
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セインとヘンリー、時々アリア、ですね(笑)
エリアリ+セインの閑話の時点で、アリアはヘンリーを『リー』と呼んでいるので、その穴を埋めるお話になります。そしてヘンリーのヤンデレが最早爆発秒読み段階(笑) 次辺りにもうそろそろ爆発しちゃいそうですね!ww ふふふww
13/3/6
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