short
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「……アリィは別に、セイを取り上げたり、しないよ」
「……」
ヘンリーの威嚇は意味の無い牽制だと、幼い少女は微かに笑う。
セインがしっかりと眠っているのを確認し、穴の縁にしゃがみ込んだ彼女の瞳が真っ直ぐにヘンリーを見つめる。
「……セイは、ただのトモダチや知り合いの腕の中なんかじゃ、絶対寝たり、しない」
「……そうかな?」
「そう」
こくん、と頷く小さな頭。
口惜しいが自分よりもセインとの付き合いが長いだろう少女が澱みなく肯定した為、ヘンリーは思わず胸にもたれかかるセインの頭を見下ろした。
一応ヘンリーにも、多少強引に彼の居場所に入り込んだ自覚はある。それでも、セインは少しは許してくれているのだろうか。
僅かに土で汚れた頬を指先で拭うと、まだ眠気は強いのか軽く身じろいだだけでまた夢の中に落ちていくセイン。クスッという笑い声は、二人の頭上から聞こえた。
「仲良し、だね」
「……そう見えるかい?」
こくん、と小さな頭が頷く。
穴の縁に座り込んだ少女はじっとヘンリーとセインを見つめ、ぼんやりと口を開いた。
「……好きなの?」
セインが。主語が省略された問いだったが、ヘンリーにはきちんと意味が通じた。
ヘンリーはセインの頬を撫でる手を止めて彼女を見上げ、人差し指を立ててそっと口元に添えた。
しーっ、のジェスチャー。少女は素直に開いた口元を閉じた。
「まだ、内緒だよ」
「……ん」
問いの答えは、もちろんYes。けれど、それを少女や他の人間に報告することがあるとすれば、それはヘンリーが完全にセインを手に入れてからだ。
口にこそ出さなかったが、ヘンリーの意図はいくらか少女に通じたらしい。こくりと頷き、穴の縁から立ち上がる。
「……頑張ってね、白薔薇の人」
「……」
少女からの思わぬ激励に、ヘンリーは小さく瞳を見張る。そして、その呼称に思わず苦笑いした。
「よいしょ……っと」
ふと少女は、小さな腕に抱えたままだった重たげな辞書を穴の中に投げ落とした。
その雑な行動に多少驚いたが、重そうなその辞書はドスンと落ちては来ず、風を纏ってふんわりとヘンリーの手元に落ちた。
「セイに、渡しておいて」
「分かった。預かるよ」
セインを抱えていない方の手で辞書を拾って頷いてみせると、少女は小さく口元を綻ばせて踵を返した。
その長いローブの裾が翻るのを見、ヘンリーは彼女を呼び止める。
13/2/27
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