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逃がさない。その深い蒼の瞳が告げるその言葉を読み取り、セインはますます混乱して彼を見上げた。

どうして。それは、どういう意味なの。

困惑と疑問はやっぱり口には出せず、結局何も言えずにセインはただヘンリーの言う通りに大人しく彼の腕の中に収まった。

ふわふわと髪を撫でる指先を心地好いだなんて思いながら、セインは解消されない疑問を胸に抱いたまま瞼を閉じた。

こうして二人分の穴の中、ヘンリーの腕に抱かれなが眠る事もすっかり当たり前になってしまったな、なんて小さく息を吐き出すと、セインはヘンリーの胸板に頬を寄せた。

とくとくと、軽い心音。柔らかい音に耳を澄ませながら、セインはゆっくりと意識を沈ませていった。


「……おやすみ、セイン」


おやすみ。同じ言葉を返せたかは、微睡みに沈む意識の中では定かではない。



* * *



「……あ」
「……君は」


すやすやとセインがヘンリーの腕の中で寝息を立て始めて、半時もいかないうち。

今まで誰も訪れた事のなかった穴の縁から、突然の訪問者が顔を覗かせた。
ヘンリーと、その腕で眠るセインを見て訪問者は大粒のエメラルドの瞳をぱちりと瞬かせ、感情の読めない視線でじっとヘンリーを見つめた。

訪問者の姿には、ヘンリーもよく見覚えがある。二度目にセインと会った時や、他にも廊下で彼を見かけた時などによくセインの隣に居たシルフクラスの少女だ。

彼女はつい最近、学内対抗戦で前年度優勝者である、『焔舞の黄昏』ことエリオット=ロッドと同時優勝となった事は記憶に新しい。

いかにヘンリーといえど、この状況で眠るセインを抱えたまま彼女と事を構えるのは難しいだろう。

ヘンリーが無意識のうちに物騒な算段を立てているとは知らない彼女は、感情の読めない深緑の瞳をゆるりと瞬かせるとじっとヘンリーを見つめ口を開いた。


「……こんにちは」
「……あぁ、こんにちは」


やや舌足らずの口調で礼儀正しくぺこりと頭を下げた彼女は、腕に何やら重そうな辞書を抱えたままヘンリーとその腕の中のセインを見つめた。


「セイ、寝てるの」
「うん。起こさないでくれると、嬉しいけど」


細やかな牽制。それが伝わったのかは分からないが、彼女はまたぱちぱちと瞳を瞬かせて二人を見下ろし、ゆるりと首を傾げた。


「……セイに頼まれてたもの、持って来た」
「あぁ、良かったら、私が預かるけど」


言って、片腕でセインを抱き寄せながら彼女を見上げると、彼女はふっと小さく笑った。


13/2/13

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あきゅろす。
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