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short
セインとヘンリー X

二人きりの時。ふとした瞬間。


「……セイン」
「…んっ」


顔を上げようとした途端、ちゅ、と唐突に落ちてきた唇。

ハッとした時には既にその形良い緋色は離れていくところで、相手の有無を言わせるつもりのない麗しい笑顔にセインは彼に抗議する機会を失った。


「…………」
「何?」
「……、何でもない」


……この間から、ヘンリーはセインに対して異常な程にスキンシップ過剰だ。

以前からよく抱き締められたり、頭を撫でられたりと、スキンシップは多い方だったとは思う。他人に触れられるのがあまり得意ではないセインが、うっかり慣れてきてしまうくらいには。

けれど、その……キス、などは、それまでのスキンシップとは濃さが違う気がして戸惑ってしまう。ヘンリーの方は抱き締めたり頭を撫でたりするのと、あまり変わらない感覚でやっているように思えるが、セインはやはり戸惑いを隠せなかった。

その美貌を惜しげもなくにこにこと綻ばせながら、ヘンリーは俯き気味のセインのココア色の髪を撫でる。


「…………」
「…………」


いつものようにセインの躰をすっぽりと抱き締め腕の中に収めているヘンリーはご機嫌な様子だが、セインの方は相変わらず気まずい思いで俯くだけだ。

長細い指が、つ、と地肌をなぞる。時折くすぐったい箇所を掠め、セインがビクッと肩が震わせるのにもヘンリーは気にした様子はない。


(……ホント、この人は何がしたいんだか分からない……)


小柄なセインの躰を抱き締めたり、頭を撫でたり。このようなスキンシップだけみてみれば、愛玩動物のように扱われているのかもしれない。

ヘンリーの腕の中、自分の指先で自分の唇にそっと触れてみる。


(キスをするのも……やっぱりそんなスキンシップの延長?)


だとしたら本当に、心臓に悪いから勘弁して欲しい。

ヘンリーの方は何とも思ってはいないのだとしても、セインには大問題だし、刺激が強すぎる。


「……ヘンリー」
「ん?」
「…………」


どうして、キスするの。

ただの気まぐれなら、こんな事は止めて。

言いたい事は山ほどあるのに、いざ此方を見下ろす深蒼の瞳と見つめ合うと言葉は萎れていく。

開きかけた口を噤んで彼の腕から逃れるように躰を揺すると、逃がさないとでもいうように背中をすっぽりと抱き込まれる。


「セイン」
「っ、何……?」


するりと肩甲骨の上を滑る指先に、びくりと背が震える。

おずおずと相手の顔を見上げると、彼は相変わらずの麗しい笑顔で。


「ちゃんと、ココに居なきゃ駄目だよ?」


耳元に吹き込まれた囁きの声に、ぞくりと背筋を何かが走り抜けた感覚がした。


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あきゅろす。
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