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short
2 ※

「しっ…、声抑えて。それとも、また口を塞ぐ?」
「っ…」


唇の上に指を添えられ、いつもより幾分低い声色でそう囁かれる。

…こんな場所で。そう思うのに、セインはこの腕から逃れる術を持っていない。

唇を噛み締めて俯くと、襟元の釦を外す指先がそっと喉元を撫でた。


「……好きだよ、セイン」
「ズルい…」


甘えるような、優しい声。セインがその声に弱いと知っていて、敢えて今此処でそんな風に囁く恋人を本当にズルいと思った。

深い海の底のような、彼の蒼い瞳をちらりと見上げる。

中性的で優しげに見えるその美貌に反して、ヘンリーの本性は案外本能に忠実なケダモノだ。…それを、セインは身をもって知っている。


「もっ…、後で覚えてなよ…!」
「うん」


暗に、今此処で行われる行為を許容する言葉に、ヘンリーはふっと微笑んでセインのこめかみに唇を落とした。

ちゅ、と軽やかな音に鼓動が高鳴る。

不安と不満と、…その奥に内包された期待。ゆっくりと顔を上げると、そのタイミングが分かっていたかのようにすぐさま唇を塞がれた。


「んっ……ふ」
「…ん」


深い口付けの合間にシャツの釦が一つずつ、勿体ぶるように外されて行き、たおやかな指先が喉元から胸元へ滑った。

こそばゆいような、もどかしいようなその感触に身を捩るが、いつの間にか背はぴったりと書架に貼り付けられていて、逃れる事はかなわない。


「んっ…ぁ、ヘンリー…」
「…ん、セイン」
「あっ…」


肌を滑る指先が、胸の先端、紅い粒を引っ掛ける。

往復するように二度、三度。敏感な其処に悪戯に触れる指に、ビクリと背が跳ねた。


「やっ……ん」
「ん、此処好きだよね…セイン」


クスリと耳元に囁かれる笑い声。

漏れる声を抑えようと持ち上げた手は、ヘンリーによってやんわりと外される。

ゆるりと握った指を一本一本解かれ、相手の指と絡ませられると、合わせた指の間からいつもよりも早い脈動を感じた。

片手だけで与えられるもどかしいような快楽に、知らず知らずの間に躰が揺れる。いつの間にやら彼の手に胸元を押し付けるようにしていた自分に、クスクスと笑う彼の声で気付いた。


「あっ…」
「もっと欲しい? セイン」
「ん…っ」


うっすらと濡れたカーネリアンの瞳が物欲しげな色を濃く宿して、細められるウルトラマリンを見上げる。

口ほどにものを言う眼差しにヘンリーはクスと笑うが、欲しいのは言葉だ。

愛撫する手を一度休め、微かに震えるセインのアプリコットの唇をなぞる。


12/5/7

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