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* * *



宵闇に紛れ、漆黒の青年と黒衣の少女が滑るように歩いて行く。


「ユラ、どうした?」
「……ん」


…家であんなに騒いでいたのが嘘のように、レイトの傍らを行くユラは大人しい。

レイトのスーツの袖を握り、周囲を見渡しては時折小さく鼻をひくつかせている。


「…何か匂うのか?」
「…おいしそうなにおいと、なんかヘンなにおい」


端的に答え、ユラは小動物のようにしきりに鼻をひくつかせる。


「…お前の“美味しい”は血の匂いだろうが、“ヘンなにおい”って言うのは何だ?」


レイトは嗅覚の鋭い人形を見下ろし、自分の袖を握る小さな手を取りながら訊く。
ユラはジッと前を見つめ、やがて呟いた。


「…前におでかけした時にもかいだにおい」
「……クスリか」
「たぶんそう」


面倒だな、とレイトは呟く。

いつの間にか二人(それとも一人と一体、だろうか?)は、昼でも人気の少ないような廃ビル街へ差し掛かっていた。

…高度な産業成長の塵(ゴミ)、旧世代の遺物。
薄汚れた鉄筋とコンクリートが立ち並ぶ、埃臭い現代の腐海だ。


「……ここ?」
「此処だ。…嫌なら外で待ってるか?」
「……ううん、いっしょに行く」


ユラは薄汚れたグレーの廃ビルを見上げ、一瞬不快げに眉を寄せたが、直ぐに首を振ってレイトにしがみついた。

レイトはそれを何も言わずに見つめ、灯りのない建物の中へ入って行く。

カツカツと本来ならば靴音が響きそうな階段を、息の音さえたてずに昇る。

…もう気配は、敏感なユラに訊かずとも分かる。


……やがてたどり着いた扉の向こうでは、複数の気配が何やら息を潜めやりとりをしていた。


「……おいしそうなにおい」


ポツリとユラが呟く。薄汚れたこの場所には似合わない、甘く幼い声色で。

レイトはその呟きには応えず、懐から取り出したモノを軽く手のひらで弄んだ。



……音もたてず、扉が開かれる。



そうして響くのは、静かな発砲音。…ややして、醜い悲鳴。


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