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ミルクココア

※ 恋人設定



「なんじゃこら、さむーっ!」


昇降口から外へ出た瞬間吹き付けてきた風に、稜平が叫ぶ。

そんな稜平の後ろ……上背のある彼を盾にする位置で真冬の風の直撃を避けた満朔も、この寒さには思わず身を震わせた。


「凍る……」
「もうこれ氷点下越えてんじゃね!?」
「そうだな…」


流石にそんな筈はないと理解しながらも、満朔は稜平の軽口に頷いた。

相方が期末試験で悲惨な成績を取らないようにと、今日は珍しく放課後学校の図書館で勉強をしていたのだが、陽が沈んでこんなに寒くなるのならさっさと家に帰った方が良かったかもしれない。

未だに稜平を北風からの盾にしながら、満朔は首に巻いたマフラーを上げて鼻先までを埋めた。

普段ならば彼の隣を歩くのだが、今日はあまりの寒さ故に一歩後ろを付いて行く。

満朔の姑息な風避け作戦は、しかし何気なく此方を振り向いた稜平によってあっさりと崩壊した。


「…なぁ、ミッサ」
「ちょ、稜平お前振り向くなよ! 寒い!」
「は?」


半身を捻って稜平が振り向いたお陰で、上手い具合に回避出来ていた北風が満朔の顔右半分を直撃する。

満朔が自分を風避けにしていた事など知るよしもない稜平は、寒さで顔を赤くした満朔にいきなり怒鳴られてぽかんとしたように瞳を見張った。……が、彼は満朔に怒鳴られ慣れている為、気にせずすぐに言葉を続ける。


「手袋持ってる?」
「ん、あぁ……一応」


コートのポケットに入れていた両手を出し、黒い毛糸の手袋を示す。


「…俺忘れちゃってさ、悪いけど片方貸してくれよ」
「え、ヤだよ。俺が寒い」


ちゃっかり稜平を風避けに使っていた事は棚に上げ、ふるりと首を振る満朔。

稜平に比べ、満朔は寒がりな方だ。低血圧気味で、元の体温が低いせいかもしれない。

あっさり首を振った満朔に肩をすくめ、けれど稜平は彼に片手を差し伸べる。


「…まぁ、そう言うとは思ってたんだけど。手袋してても、ミッサの手結構冷たいだろ。片手は俺が引き取るから、手袋片っぽ貸して」


それはつまり、手を繋ごうと言っている訳で。

稜平にしては遠回りな物言いに、満朔は視線をさまよわせながら答えではない言葉を口に出す。


「……、何、お前、俺のカイロかよ」
「いや、恋人だけど」
「……」


さらりと応えたその言葉に、満朔の瞳が大きく見開かれる。

二年に進級していくつかの季節を越えて、親友としてだけではなく恋人としても付き合うようになった二人だが、その日常はただ親友だった頃とそう大きな変化はない。

だからかこうして、不意に稜平が恋人としての関係を口にする度、満朔は驚いた後……恥じらう反応を見せるのだ。

寒さの為だけではなく頬を赤くして目を伏せた満朔を見て、稜平は小さく笑った。切り替えが上手くいかないらしく、いつまで経っても初々しい態度を見せる恋人をとても可愛いと思う。


「ミッサ」
「……」


名前を呼んで促すと、無言で稜平の手に落とされる手袋の片方。

有り難くそれを拝借して片手に嵌めると、稜平は開いた方の手のひらを満朔に差し出した。

躊躇うように視線が揺れた後、それでもゆっくりと手のひらが重ねられる。

先程まで手袋を嵌めていた筈なのに自分より少し冷たい手のひらを握ると、稜平は繋いだ手を自分のコートのポケットに突っ込んだ。


「稜平」
「行こうぜ、ミッサ」
「……うん」


何か言いたげに口を開いた満朔だが、稜平が微笑みながらそう告げると小さく頷いた。

人気の少ない道を選んで、二人並んでゆっくりと歩き始める。


「風が冷たい」
「そうだなー」
「…帰ったら、あったかいココアが飲みたいな」
「ミルクティーじゃなくて?」
「今日はココアがいい」


会話を交わしながら、コートの中に隠した手のひらをこっそり意識しながら。

なるべく人気の少ない道を選びながらも、駅に近付くに連れ段々と増えて行く人に、いつまで手を繋いでいられるだろうなんて、思いながら。


「……ミッサ」
「ん?」
「今日、ウチに寄って行かない?」


それは、ただ親友だった頃なら特別意味などない、珍しくもない問いだ。

今は別の意味も含む言葉であるから、断られるかもしれないと思った。

稜平が満朔を見下ろすと、彼は俯きながらも口を開いた。


「…最初から、そのつもりだったよ」
「え……」
「だってお前、課題のプリント終わってないだろ」
「そっちかー」


続いた言葉には甘さも色もへったくれもなく、稜平は思わず情けない声を出した。

いや、確かに満朔と居残りまでして進めたプリントは、残念ながら一人では解けそうもない最後の難問を残したままだけれど。


「どうせ稜平一人じゃ、家帰っても続きやらねえだろ」
「いや、その通りだけどー」


なんだかなぁ、稜平が手袋を嵌めた手で頬を掻く。

コートの中、素肌で触れ合った手が、キュッと握られる。


「……早く課題終わらせて、そしたら」
「…そしたら?」
「……もっと、別のコトしよう……、って、やっぱ今のなし!!」


呟くように言った満朔の顔は真っ赤で、伏した目はうるうると潤んでいて、そんな可愛い表情を可愛い言葉を、忘れられる訳などなく。

満朔の手を繋いだまま、稜平は歩調を速める。


「わっ、稜平!?」
「早く家帰ろ」
「えっ、ちょ……」
「帰ったらココア淹れてやるから、早く」


早歩きになる稜平に必死に追いすがりながら、満朔はぱちぱちと瞳を瞬かせる。

これはマズったかな、なんて思いながら、それでも繋いだ手は離さなくて。

嫌だとか思うなら、最初から一緒になんていない。


「…ココア飲みたいな」
「早く帰ろ!」















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ラズベリーの二人の恋人設定です。一応寒い季節になる頃には、二人は付き合ってる予定です。

付き合ってからも二人は親友なのは変わらないんだけど、それでも恋人でもあるでしょ?、って言われると照れるミッサだと可愛いw

最近寒いので、寒い中で甘酸っぱくいちゃいちゃしてるSSで寒さを吹っ飛ばしたいけど、飛ばせてるのこれ……(笑)


12/12/5〜13/1/9(拍手掲載)

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