short
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* * *
「……仲、良いの?」
「は?」
「あの、シルフクラスの女の子」
その日の放課後。声なき言葉の通りにセインを探し訪ねてきたヘンリーが不意に口にした疑問に、セインはぱちりと瞳を瞬かせた。
心なしか、背後から自分の躰に回された彼の腕にやんわりと力がこもる。
躰を拘束されているようなその感触に身を捩りながら、セインは振り返ってヘンリーの顔を見上げた。
「…どうしたの、突然…」
普段穏やかな笑みを浮かべているその美貌は、今は何故か無機質で温度が無くて。
深いウルトラマリンブルーの瞳がまるで氷のように見えて、セインは思わず曖昧に笑った。
今までどれだけセインが素気なくしようと、皮肉を吐こうが消える事の無かった笑みが消えている事に、言いようのない不安と胸騒ぎを覚える。
「ヘンリー……?」
蒼い瞳が、じっと戸惑うセインを見下ろす。
「…仲、良いの?」
「アリアのこと? 仲、良いとは思うけど、でもそれが何……」
「ガールフレンド?」
「は?」
続いた質問に、瞳を瞬かせる。
女友達、という意味で取るならそう言えない事もないが、ヘンリーの言うところの意味は違うだろう。
「アリアとはそんなんじゃない……、けど、さっきからどうしたの、ヘンリー。何か怖いよ……?」
アリアとはあくまで友人であって恋愛感情などある筈もないが、それよりもヘンリーがそんな事を詰るように質問してくる意味が分からない。
冷めた瞳でじっと見下ろされるのが、とても居心地が悪い。その視線から逃れたいのに、徐々に強くなっていく腕の力はセインを逃がしてもくれない。
「ねぇ、ヘンリー……、やだ、離して…」
「……離さない」
低い声の呟きに、背中がびくりと跳ねた。
元の体格差も、力の差も、この体勢も、セインが彼の腕から逃れる事を許さない。
「へ、ヘンリー……やっ…」
「……そんな風に怯えてる目も、結構好きだな」
「え…っ」
冷たかった表情が、ふっと和らぐ。その蒼の眼差しが柔らかく注がれ、頬に優しく長い指が触れる。
そんな態度につい力を抜いてしまいそうになるが、今し方その緋色の唇は、確かに酷薄な言葉を紡いだ。
「ヘンリー……?」
「……その目も、好き」
目尻を辿るように、長い指先が滑る。
その感触に身を捩ろうとするとくいと顎を取られて、いっそ精巧な造りもののような美貌が、すぐ近くに。
「え……」
距離が近付き過ぎて、ピントがぼやける。
ちゅ、と短い音とともに、唇の上に柔らかい感触。
12/10/23
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