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日常

キシ、とベッドのスプリングが軋む小さな音。

強めのアルコールの匂いの奥に細く漂う、友人のお気に入りの香水の香り。

ゆっくりと僕が重い瞼を押し上げると、友人が僕の顔を覗き込んでいるところだった。


「…ん…、惣(そう)……?」
「……起きたか」


呟きと共にコツン、と薄く二日酔いを纏った頭を小突かれる。

起き上がろうとした拍子に頭がくわんと揺れ、僕は再び枕の上に倒れ臥した。

少し堅いその枕からも、友人の纏う香水の香りがうっすらとして、僕はぼんやりとしたまま彼の顔を見上げた。


「……水、いるか?」
「うん…」


横になったまま素直に頷いた僕にクッと喉を鳴らして笑うと、友人はひらりと片手を振って部屋を出て行った。

視線を流してその背を見送ると、やっと眠気と居残ったアルコールに侵されていた頭が活動を始める。

…此処は大学の友人、秋崎(あきざき)惣の家。

惣の両親は彼の大学入学とほぼ同時に揃って海外へ長期出張してしまったらしく、現在この2LDKのマンションの部屋に住んでいるのは惣一人だけ。適度な広さと保護者の監視の眼がないこの部屋が暇な大学生の溜まり場と化すのには、そう時間はかからなかったようだ。

昨日も家主の惣と、彼の幼なじみでもある両角圭也(もろずみ けいや)と、そして僕との三人で安い缶チューハイや発泡酒で酒盛りをしていて…、あまり酒に強い方でない僕は途中で酔い潰れた……のだろう。アルコールのせいで一部記憶が霞むが、圭也に何度もチューハイを注がれていたような気がする。


「…圭也は帰ったのかな…?」


惣と幼なじみである圭也は、この部屋と同じマンションの5階に家族と共に住んでいる。同じ敷地内なので、終電の時間など気にせず真夜中でも気軽に寝に帰る事が出来る。

それに対して僕は一駅離れた場所にアパートを借りており、まぁ歩けない距離と言えない事もないのだが、酒にあまり強くない質もあってそのままなし崩しに惣の部屋に泊まる事も多かった。


「……わざわざベッドに寝かせてくれたんだ、惣」


再びゆっくりと身を起こし、自分が今まで横になっていたベッドをなぞる。これは惣が普段から使っているベッドだ。

僕らが呑んでいたのはリビングでだったから、わざわざ惣が運んでくれたという事になる。

別にそのまま床に放置でも、リビングのソファーに寝かせるでも良かったのに、惣は案外律儀で優しい。


「依月(いつき)?」


部屋に戻ってきた惣の手には、ミネラルウォーターのペットボトル。


「ん、ありがとう」


差し出されたそれを受け取って、ありがたく喉を潤す。冷たいその喉越しに、また少し意識がクリアになる。


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あきゅろす。
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