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short
セインとヘンリー W

下ろされた白銀の髪が、振り返った拍子にさらりと肩を滑り落ちる。

人混みの向こうで、深蒼の瞳が優しく微笑む。


「あ……」
「……セイ?」


アカデミーの古い石廊、不意に足を止めたセインに、一緒に歩いていたアリアが首を傾げる。

廊下の向こう、多くの女子学生に囲まれている、最早見慣れた人物の姿。

人気の多い場所だからか、周囲を学生に囲まれているからなのか、いつものように近付いてきて絡まれたりはしない。

ただ、視線が合って、柔らかく微笑みかけられた。

その瞳を見て思わず足を止めてしまったセインの視線を辿り、釣られて立ち止まったアリアもヘンリーの姿を見つけた。


「……」


数秒間絡まっていた蒼と朱の視線は、アリア以外の人間が気付く前に名残惜しげに外された。

知らない間に詰めていた息を、ふ、と愁いと共に吐き出す。

ほぼ同時に今度は傍らから深緑の視線が注がれている事に気付き、セインはアリアを振り返った。


「…何? アリア」
「……何、って」


それは此方の台詞ではないかと言わんばかりの眼差しで射抜かれる。

呆れを含んだ眼差しを貰う理由が分からず、セインは首を傾げるが、彼女が自分に釣られて歩みを止めている事に気付いて小さく謝罪した。


「あ、ごめんね」
「……それは、いい」
「…?」


立ち止まった事は別にいいらしく、彼女は他の事でセインに物申したいらしい。


「……仲良く、なった」
「え?」
「…“白薔薇”の人」


ちらりとヘンリーの視線を流して言ったアリアに、セインはぱちりと瞳を瞬かせる。


「…え、ヘンリーのこと…?」


未だにヘンリーのアカデミーでの通り名を知らないセインは首を傾げるが、仕草からアリアがヘンリーのことを指しているのは分かる。

こくんと頷いたアリアに、セインは戸惑いながらもヘンリーの方へ視線を流し、また戻した。


「仲良く…なった、のかなぁ……?」


何故だかは分からないが、放課後の逢瀬を重ねている事を、アリアや他の誰かに言うのは気恥ずかしいような気がして。

誤魔化すように言葉を濁らせると、呆れたように露骨にため息を吐かれる。


「……あんな眼で見てた、のに」
「え…?」
「…分からないなら、いいよ」


まるで恋に愁う乙女のようだった、などと告げれば、セインはその瞳のように真っ赤になるに違いない。

やれやれと首を振って歩き出したアリアに、セインは慌てて後を追うが、背後にまた蒼い視線を感じて最後にちらりと振り返る。


『…………』


廊下の向こうから此方に視線を向けて、ヘンリーの紅唇が声なき声を紡いだのが見えた。


「……?」


唇の動きなど読めないセインは首を傾げるが、前を歩くアリアが何でもないように言った。


「…また、放課後。……だって」
「えっ、アリア分かったの?」


こくん、と頷く友人には謎の引き出しが多い。

あっさりと読唇術を披露したアリアは、何でもないようにポケットから取り出したキャンディを口に入れた。


12/10/15

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