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short
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レモン味の炭酸飲料をごくごくと飲み干していく姿を眺めながら、満朔はぼんやりと口を開く。


「……そう言えば」
「ん?」
「一番最初に稜平に奢って貰ったのも、ロイヤルミルクティーだったっけ」
「…そうだっけ?」


満朔の唐突な回顧の言葉に、稜平はきょとんと瞳を瞬かせる。

一口飲み下したペットボトルは再び蓋をして机の上に置き、満朔は頬杖をかいて稜平のアホ面を見つめた。

ぽかんとしていても、元が整っているからかそれなりに見れる面で、なんとなく腹が立つ。


「高校入ってすぐ、バイト始めて初めての給料日だからー、って買ってくれたのが確かコレだった」


とん、と爪の先でペットボトルのキャップを弾く。

まだ付き合いが浅い時だったから一応遠慮したにも関わらず、「俺だけの給料なんだから、俺が使いたいように使う。ミルクティー、好きなんだろ?」なんてやたらイケメンな台詞を吐いて渡された物だから、そう言いながらもハッキリ覚えている。

稜平にとっては、忘れる程の何でもない出来事だったのかもしれないが。


「記憶力いいな、ミッサ」
「……まぁ、お前よりはな」


カラカラと笑う稜平を見て、自分の思考が気恥ずかしくなり、思わず皮肉を吐いてしまう。

そんな満朔の皮肉には慣れっこの稜平は、笑顔を崩さないままロイヤルミルクティーのペットボトルを引き寄せた。

今や当たり前となったこの習慣が出来たのは、いつの事だったか。


「…やっぱいつものより、ミルクが濃いカンジ」
「ロイヤルだからな」
「ロイヤル、ってどういう意味だっけ?」
「王室、王族」


絶望的なのは国語だが、他の科目全般もあまり成績の良くない稜平に短く答えてやる。

ペットボトルをまじまじ見つめつつ、「なるほど、ミルクティーの王様なのか…」と呟く稜平を軽く笑い、満朔は反対側のペットボトルを引き寄せた。

稜平と居る時以外には口にしない炭酸を、少量口の中に流し込む。


「……すっぱ」
「このミルクティーの後だと、余計にそう思うかもな」


苦手な炭酸を口にして顔をしかめる満朔に、稜平ははい、と手にしていたペットボトルを返した。

受け取ったそれを再び口の中に流し込み、炭酸の余韻を上書きする。

飲む度に顔をしかめるくせ、満朔は稜平から渡される炭酸を拒んだりはしない。苦手ならわざわざ飲む必要はないと思っているけれど、満朔はこの“交換”の習慣は嫌いではなくて。


「……先に一口欲しい、って言ったの、ミッサだったっけ」
「…、そうだったかもな」


苦手な炭酸飲料をごくごくと飲み干す稜平を見て、何故だか自分にも飲める気がして。

真似して受け取ったペットボトルに口を付けたら、盛大に咽せたのも、今では馬鹿らしい思い出の一部だ。


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あきゅろす。
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