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「ん? ミッサ?」
「……、考えとく」
此方はあっさり満朔のあだ名を口にする彼――稜平に、満朔は曖昧に首を振った。
まだ少し、いきなり相手を下の名前で呼ぶ事に抵抗がある為、こっそりと心の中で彼の名前を呼んで馴らしていこうかと思う。
「……あ、ミッサ、そろそろ入学式始まるって」
「ああ」
「行こうぜ」
椅子から立ち上がって廊下へ向かっていく長身を追いかけ、満朔は小さく息を吐く。
これから、どんな高校生活になるのか。予想は出来ないし、多少の不安もあるけれど……案外悪くないんじゃないかと、思う。
「ミッサ!」
「今行くって」
廊下で大きく自分の名前を呼ぶ彼、稜平の隣なら、きっと。
* * *
「……ミッサ?」
「ん……」
ゆっくりと瞼を開けると、夕陽の差し込む放課後の教室で。
寝惚けた頭をゆるゆると振ると、其処は入学したばかりの一年の教室ではなく、最早見慣れた二年の教室。勝手知ったる様子で、満朔の前の席に腰掛ける稜平。
「待たせてゴメン。でも、ミッサが居眠りなんて珍しいな。疲れてた?」
「……いや」
ゆるりと首を振って、寝起きの気だるさを散らす。
そうだ、今日は稜平がまた補習でプリント課題を貰って、その勉強をみていて…。主に満朔が頭を絞って完成させたプリントを、張り切って稜平が「出してくる!」と教室を出て行ったのを見送ったところで、記憶が途切れている。
うたた寝してしまっていたのか。正面から満朔の顔を覗き込む稜平を見つめ返し、僅かに舌足らずな声で問う。
「どのくらい、寝てた?」
「ん? さぁ、10分くらいじゃねえの。俺がプリント出しに行って、飲み物買ってくる間のちょっとの時間だし」
ミッサの分、と机の上に置かれたペットボトルは、いつものよりも10円だけ高級なロイヤルミルクティー。
「なに、賄賂?」
「お礼。俺の好意を、人聞き悪いように言うなよ」
「ふぅん……」
まだ月始めだからか、財布に余裕があるらしい。取れる時に満朔の機嫌を取っておこうという魂胆なのだろう。どうせ、月末になったらたかられるのは満朔だ。
お礼という名の貢ぎ物を手に取った満朔は、遠慮なくそれを口にする。10円違うだけで、その味はいつもよりも少し濃厚に感じた。
「…ところで、普通のミルクティーとロイヤルミルクティーってどう違うんだ?」
「さぁ? 何か作り方が違うとかって聞いた事あるけど、俺は自分で淹れる訳じゃないから忘れた」
ペットボトルのミルクティーはよく飲むが、満朔は別に紅茶党だとかそういう訳ではない。
訊いた稜平もそこまで興味がある訳でもないらしく、ふぅんとだけ相槌を打って自分の分のペットボトルを開けた。
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