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ロイヤルミルクティー
「…えーっと、ウエウラ……マン、えっ、これ下の名前何て読むの?」
それは、彼等が高校に入学したての頃、今から一年と少し前の話。
満朔の前の席に座った少年――すらりと背が高く、おまけに人目を引くようなイケメンだ――が、机の上に貼られたフルネームの書かれた紙を見て満朔に話しかけてくる。
まだ入学式すら始まっていない、外の掲示板に貼り出されていた新しいクラスを確認して、まだ慣れない教室で出席番号順に割り振られた席に座った矢先の言葉。
満朔は座ったばかりの席から腰を浮かせ、相手の席に貼られた名前を確認すると、ゆるりと肩をすくめる。
「まぁ、下の名前が読みづらいのは認めるけど……名字が『ウエウラ』だったら、出席番号的にアンタの後ろにはならないんじゃねえの?」
高校デビューなのか、入学初日にして既に明るい茶色に染められた髪を掻き上げる相手の名前は、『加賀屋 稜平』だそうだ。満朔のように少々変わった読みをする姓名でなければ、彼の名前はカガヤ リョウヘイと読むのだろう。
身に付いた習性か、初対面の相手に対しついつい嫌味ったらしい言い方が口をついて出てしまい、満朔は内心しまったと顔を歪めたが、カガヤは特に気にした様子はないようで再び机の上の紙を指で叩いた。
「ん? あぁ、じゃあ名字も含めて名前なんていうんだ?」
「カミウラ、ミツサ」
少々変わった自分の下の名前も含めたフルネームを答えると、カガヤは満朔の漢字を眺めてしげしげと呟く。
「へぇ、これミツサって読むのか」
「…満月の『満』に朔月の『朔』だよ」
「? サク?」
「新月って意味」
答えながら、コイツ顔はいいけど頭弱そうだな…、などと失礼な感想を抱く。…しかし後々思い返してみても、この第一印象は間違いではなかったと思う。
ミツサ、満朔、と自分の名前を反芻する相手に微妙な心地を覚えていると、彼はふと顔を上げて此方を向いた。
「ミツサ、ってちょっと言いづらいからミッサって呼んでもいいか?」
「あだ名は別に構わないけど……」
アンタ、ちょっと馴れ馴れしいな。とは口に出さないが。
しかし、入学初日でクラスには知らない顔ばかり。あまり人付き合いが得意な方ではないとの自覚がある満朔にとっては、此処で友人候補を確保しておくのが無難か。
代わりに口に出すのは、「アンタの名前、まだ聞いてないけど」の言葉。
カガヤはぱちりと瞳を瞬かせると、無邪気な表情で笑った。
「あぁ、ゴメンゴメン。俺は加賀屋稜平。稜平でいいぜ」
「……」
その言葉に、満朔は微かに眉を寄せる。
今日初めて会った友人候補に名前を呼ばれる事は、まぁ構わない。けれど、此方から下の名前を呼び返すというのは、満朔には少々ハードルが高い。
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