short 2 「電車通学なの?」 「あ、いつもはチャリなんですけど。雨降った時だけ電車で」 「あぁ、…それで、こないだは傘パクられちゃったんだ」 「そうですねー…。…でも、あの時は助かりました」 「どう致しまして。風邪は引かなかった?」 「お陰様で」 にこにこと笑う高校生は、この前も思った通りに擦れの無い笑顔で好感が持てる。 可愛いなぁ、こんな弟が欲しかった。 つられて俺も微笑みながら彼を見返すと、ふと彼は思い出したように俺を見つめた。 「あ、あの……」 「ん?」 「名前、お名前教えて貰ってもいいですか?」 戸惑いがちな仕草で訊かれて、そう言えば名乗ってなかったな、と思い出す。 ついでに俺も彼の名前を知らない。表札の名字は盗み見たけれど。 「高町博仁(たかまち ひろひと)。大学二回生」 「高町…さん」 「君の名前は?」 反芻するように俺の名前を唇に載せた少年が、何だかくすぐったい。 笑みを浮かべたまま聞き返すと、ハッとしたように彼は居住まいを正した。 「三浦麻貴(みうら あさき)です。二年生…です」 「アサキくん、か」 少年、改めアサキくんは、俺が下の名前を呼ぶとぱちりと瞳を瞬かせた。 きょとんとしたようなチョコレート色の瞳が、此方を見上げる。 「あ、嫌だった?」 「い、いえ、そんな事はないですけど…」 「綺麗な音だよね、アサキくん。いい名前だ」 「うぇっ? あ、ありがとうございます…」 思った通りにストレートに褒めると、純真らしい高校生は微かに頬を染めて頭を下げた。 うん、可愛い可愛い。 頷きながら俺はアイスコーヒーに口を付け、あわあわとした様子のアサキくんを見て癒された。 俺の周りにこういうタイプは居ないから、ついつい構いたくなるなぁ。元々歳下の子は好きだし。もちろん、恋愛的な意味ではなく、子供が好きって意味だ。 甘そうなカフェオレを口に含み、遠慮したようなチョコレートの瞳が俺を見上げる。 「あの、誘っておいて何ですけど、高町さん何か用事とかなかったですか?」 「今日の講義はもう終わりだから。バイトも無いし、暇だからアサキくんが気にする事ないよ」 そう答えると、ほっとしたように息を吐くアサキくん。 そう言うアサキくんの方こそ、何か用事とかは無かったのかね? 「あ、ちょっと…、明日の小テストの勉強して行こうかな、って思ってましたけど」 訊いてみると、そう返ってきた答え。 隣の席に置いた鞄をちらちらと見下ろすアサキくんに、俺は笑顔で手のひらを見せた。 「良かったら、勉強みようか?」 「えっ、いいんですか?」 「まぁ、出来るか出来ないかは科目によるけど」 一応教職希望なので。 ≪ ≫ [戻る] |