short
ピーチキャンディ
ふわ、と慣れない甘い香りが鼻孔をくすぐった。
稜平はその香りにふと顔を上げ、その元を辿ろうときょろきょろと辺りを見回す。
そんな彼の不審な行動に、隣を歩いていた友人がゆるりと首を傾げて訊ねる。
「稜平? どうした?」
「いや…、ん? …あぁ、ミッサか」
「は?」
ずっと隣に居たというのに、何故か「今気付いた」と言わんばかりの反応をされ、満朔は盛大に顔をしかめた。
「おい稜平、てめえどういう…」
「ミッサ、シャンプー変えた?」
「は?」
案外気の短い満朔が幾分高い位置にある稜平の胸ぐらを掴むが、そんな事は気にした様子のない稜平に唐突にそう訊かれて目を丸くした。
稜平の鼻孔をふわりとくすぐった香りの元は、すぐ隣にいる満朔。香水を付けるようなタイプではないのは知っているので、シャンプーの香りだろうと辺りを付けて訊いたのだが、満朔はそんな稜平の様子に毒気を抜かれたように手を離す。
「何、突然…。変えたって言うか、使ってたのが無くなったから新しいのにしたけど、何で分かるんだ?」
「匂いがしたから。甘い…これ何の匂い?」
「確か桃…。そんなの、分かるもんなんだな」
女の子のように髪が長い訳でもなし、使った時はともかく、今は満朔も自身のシャンプーの香りなど忘れていたというのに。
襟足を弄りつつそんなに匂いがするだろうか、と首を捻っていると、稜平の手が伸びてきて同じように襟足に触れられた。
「桃、桃かぁ…。何かいい匂いだな」
「そうか? 使ってる時は結構凄い匂ってたけど」
「何か、ミッサが美味そう」
「アホか。…ってかくすぐったい! 触んな!」
襟足に触れるついでに項を掠めていった指先に、ぶわ、と肌が粟立つ。
ばしりと触れてきた稜平の手を引っぱたき、満朔は思わず赤くなった顔を逸らした。
叩かれた稜平は別段気にした様子もなく、満朔の旋毛を見下ろす。
「桃いいよなぁ…。何か桃食いたくなってきた」
「まだ時期じゃないだろ。もう暫くしたら、ファミレスでデザートとかでるよな」
また不躾にぺたぺたと髪に触れて来ようとする手を叩き落としながら、満朔は言った。
この時期桃は全く売っていないという訳でもないが、学生に易々と手が出せるような値段ではない。
「今食いたい」
「給料日前で金無いんだろ」
「うん。…あー、ちくしょ…」
今月ゲームとか買っちゃったからなー、と悔しそうに呻く稜平に小さく笑い、満朔はポケットを漁った。
確か、持っていたと思うのだが。
「あ、あった」
「ん?」
「桃味のアメ。とりあえず、これで我慢しとけ」
「あ、ありがと」
ポケットから取り出した飴玉を稜平の手のひらに落とし、満朔はニコリと微笑んだ。
貰った飴を口に入れながら、稜平は満朔の珍しい無邪気な笑顔を見つめる。
「稜平の給料日過ぎたら、桃食いに行くか」
「…あぁ」
桃味の飴玉より、本物の桃より、満朔の方が美味しそうに見える。…なんて言ったらきっと怒られるであろうから、口を噤んでおく。
(その意味なんて知らないまま)
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稜平に「シャンプー変えた?」と言わせたかっただけw 「満朔の方が美味しそう」と思わせたかっただけww
稜平が無意識に満朔を意識してる話が続いてるけど、そろそろ満朔が稜平を意識する話が書きたいな。
12/6/29
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