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ガサガサと爬虫類用と書かれたペット用お菓子の袋を開けながら、春氷がゆるりと首を振る。
「まぁ、元々誰か呼ぶつもりの部屋じゃなったし」
「…あー、うん。春氷はそういうヤツなんだって、最近は大分分かってきたけど」
「奇遇だな、俺もだ」
春氷なら仕方がない。最近暁もよく思い浮かべる台詞だ。
爬虫類用のお菓子を襟元から顔を出した白蛇に与えているのも、春氷ならば仕方がないのだ。
「きゃーっ、ヘビ!!」
ソファーの向かい側でのけぞって悲鳴をあげた雄二郎に、「大丈夫! 毒はないらしいから!」とちょっとズレたフォローをしている由貴。ミズチとじゃれ合う春氷は、彼らの様子をまったく気にした様子もない。
「……カオスだな」
ぽつりと呟いた暁の言葉に頷いたのは、大人しく紅茶を飲んでいた等のみ。智佐や晋介はそれぞれ動物をモフるのに夢中だし、雄二郎は蛇に怯え、由貴はそのフォローに必死だ。春氷はもちろん暁の呟きなど聞いている筈もなく、愛娘といちゃいちゃするのに夢中だ。
……別に泣いてなんて、ない。
「ギャーッ!!」
そうこうしているうちに、三度雄二郎の悲鳴。
今度は何だと振り向けば、彼の頭にフクロウではない別の鳥が乗っている。
「九官鳥…?」
「なんで! 何でみんな俺の頭に乗るんだよーっ!?」
「……止まりやすい、んじゃ…ない?」
怖いのか爪が痛いのか、涙目の雄二郎の隣で、乗られているのが自分でなければ平気なのか等がぽつりと言った。
怯えている雄二郎を余所に、彼の頭に止まった九官鳥はどことなく満足そうに嘴を開く。
『カワイイコ……』
「しゃべったァァァ!!」
「…九官鳥だし、別に喋ってもそんなにおかしくはないだろう」
「頭の上だから、何に乗られてるか姿が見えないんだよっ!」
「…そうか」
半分パニック状態になっている雄二郎を、少し哀れに思いながら頷く。
春氷も止めてやればいいのに、と暁が振り向くと同時に九官鳥が再び嘴を開く。
『イイコダネ……、オレのカワイイコ、サァコッチオイデ…、イッパイカワイガッテアゲル……』
「…………」
「…………」
鳥類の片言な発音だが、その言葉に含まれる妖しげな甘さに、その場にいた役員全員の動きが止まる。
同室の由貴は初めて聞く訳ではないらしく苦笑いし、春氷はクスリと笑って九官鳥へ手を伸ばした。
「ん、コダマ、イイコだね。…さ、こっちにおいで」
『コダマ、イイコダネ』
九官鳥なのにオウム返しで返した黒い鳥は、春氷が呼びかければあっさりと雄二郎の頭を離れる。
蕩けるような甘い表情で九官鳥の嘴を撫でる春氷に、凍り付いた役員たちはハッと我に返ってきた。
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