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彼の手にした小動物を他の役員たちもしげしげと見つめ、一向にすすめられたソファーには座ろうとしない彼らに春氷が笑う。
「佐上、俺は皆さんの分のお茶を淹れてくるから」
「あっ、うん」
春氷が踵を返すと、彼の肩に乗っていたフクロウがバサリと羽ばたいて部屋の床から生えた木へと移った。
それを見、未だ小さなシマリスに夢中な役員たちから離れて暁はその背に続く。
気付いて振り返った春氷に、小さく申し出る。
「…手伝う」
「え、でも間宮会長も一応お客さまですし…」
「だが、この人数のカップを持って行くのは一人では大変だろう?」
生徒会役員五人と、春氷と由貴で七人分。当然トレイ等は使うだろうが、それでも一人で運ぶのには手に余る量だろう。
そう言うと、春氷も小さくはにかんでぺこりと頭を下げた。
「それじゃあ、お願いします」
「あぁ」
春氷に続いてキッチンに入ると、リビングとは違って其処は改造は施されていないようだった。
が、数々のペット用と思われるペットフードの袋がドカドカと積まれており、かなり狭苦しい印象を受けた。…まぁ、春氷らしいと言えば、らしいのだが。
「…えーと、ダージリンにウバにキームン、セイロンにニルギリもあったっけ? アールグレイとかプリンスオブウェールズもありますけど、会長はどれがいいですか?」
「……随分と選択肢が多いな」
「ちょっと前に母さんがそれはもう大量にイギリス土産を送りつけてきまして。…こないだ会長にもお裾分けしたじゃないですか、その余りですよ」
「…そんなに余ってるのか?」
言いながら一際大きなダンボールに頭を突っ込み、ガサゴソと中を漁る春氷。
察するに、そのダンボール箱にぎっしりと紅茶が詰められていたのだろう。確かに大量だ。
「…めんどい。適当に掴んだのでいっか」
大量の選択肢を前にして、悩むのを放棄したらしい春氷の呟き。
その声に肩をすくめ、暁は薬缶に水を汲んだ。指示された通りに、お湯を沸かす。
人数分のお湯が沸くには、まだ少しばかり時間がかかるだろう。シンクにもたれかかった暁は、アールグレイの缶を開けた春氷を見やった。
「それにしても、凄い部屋だな」
「あぁ。…去年までは人数の都合で一人部屋だったもんで。誰に遠慮する必要もなかったから、ついついやり過ぎちゃったんですよねー」
多分、最初から佐上が同室だったら、流石に此処まではやりませんでした。と、春氷は軽く笑う。
流石に彼自身も、これが“やり過ぎである”という自覚はあるのか。しかし大して反省をしている訳でもないようだが。
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