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「……予想以上だな……」
暁の小さな呟きに、フクロウを肩に乗せた春氷が首を傾げた。
その部屋の半分程は、ソファーやテレビなどが置いてある普通のリビング。が、そのもう半分程は、床から熱帯な雰囲気のある木々が生えており、部屋の隅には砂漠のような砂のスペース、更には水の溜まった沼地のような場所もある。
一応、寮の部屋は卒業までに元通りにするのならば、内装をある程度自由にリフォームしても良いと許可されている。…が、此処までやっている生徒は春氷の他にはいないだろう。
ギョッとしている役員たちに疲れたようにため息を吐いた由貴は、苦笑いして彼らを促す。
「……まぁ、遊び来ちゃったんなら仕方ないか。みんな、上がってくれよ」
「あ、うん…」
「…お邪魔します」
それぞれ系統の違う美貌で揃ってぽかんと口を開きながら、役員たちは部屋に上がった。最後尾の暁も、彼らの脱ぎ散らかした靴を律儀に揃え直してやってから後に続く。
意外にも住居スペースと自然スペースはきっちりと住み分けられていて、由貴は彼らをソファーへと誘導した。…が、動物たちが悠々と過ごしているこの異様な部屋、落ち着いて座れる筈もない。
きょろきょろと部屋を見渡す役員たちの中、先程の雄二郎のような悲鳴をあげたのは書記の井川等(いがわ ひとし)だった。
「っ、うわっ、わわわ、わぁっ!?」
お前、そんな大きな声出せたのか。と場違いにも暁は思ってしまったのだが、流石にそれを口に出す事はせず。
普段は無口、というより根っからの口下手である等が大きな悲鳴をあげたのに、役員たちも目を丸くして見つめる。
慌てている等の肩を駆け回っているのは、小さなシマリスだ。ちょろちょろと大きな尻尾を揺らし動くその姿は、端から見ている分にはとても可愛らしかった。
しかしよじ登られている本人は何が肩を駆け回っているのか分かっていないのかパニック状態で、そんな中のほほんとした声をあげるのはやはり春氷だ。
「…コダチ、書記さんは大きいけど、木じゃないよ。ほら、こっちおいで」
春氷が笑いながら手を伸ばすと、等の肩に居たシマリスはぴょんと春氷の腕に飛び移った。
フクロウの乗る反対側の肩に収まったシマリスに、瞳をぱちぱちとさせた副会長の柿本智佐(かきもと ちさ)が呟く。
「可愛い…」
フクロウの強襲には驚いたものの、愛想笑いの得意なこの副会長は、なかなか動物好きらしい。
小さなシマリスをじっと見つめる王子様然とした美形に、春氷はいつもと変わらぬ飄々とした調子で笑う。
「触ってみますか?」
「…いいのかい?」
「いいですよ。…コダチ」
小さなシマリスを自分の肩の上から智佐の差し出した手のひらへと移し、春氷は小さく笑う。
手のひらへシマリスを乗せた智佐の瞳は、どことなく輝いている気がした。
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