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傍観者とお部屋訪問

「……言っておくが、俺は一応止めたからな」


ため息混じりに暁が吐き出した言葉は、既に仲間たちには聞こえていないかもしれないが、それでも言い訳のように一言呟いておく。

暁以外の役員たちが求愛して止まない相手、転校生の佐上由貴。我先にと彼に構って貰おうとする役員たち、それを一歩引いた所から見守る事が暁のスタンスとなって約一ヶ月半程。

彼らは由貴の昼休みや放課後の時間だけでは飽き足らず、休日も構って欲しいらしい。

…しかし、何が原因なのか(暁はその“原因”が、なんとなく想像出来る気もする)、由貴は未だに彼ら生徒会役員たちにお部屋訪問を許可した事はない。
今までは彼に許可を取ろうと躍起になっていた役員たちだが、もう我慢の限界を超えてしまったらしい。本日、アポ無しでの強行突破に踏み切った。

此処は佐上由貴と、…同室者の百瀬春氷の寮部屋の前。誰がチャイムを鳴らすかでまた揉めている役員たちを一歩引いた位置から見守りながら、暁はため息を吐いた。

……由貴と行動を共にしてはいるものの、暁以外の役員たちとはほとんど会話はない筈だから、彼らは知らないのだろう。目立たず凡庸に見える少年、百瀬春氷のある意味での変質振りを。

壮絶なジャンケン対決を制したらしい会計の坂城雄二郎(さかき ゆうじろう)が、喜び勇んでチャイムを押した。他役員たちが一歩前に出る中、暁は一歩後退る。


「由貴ー……うわっぷ!? な、なになになにっ、痛たた、痛い! 爪痛いって!」


ガチャとドアが開くとほぼ同時に強襲した黒い影にバタバタと暴れている雄二郎を見て、暁はゆるゆると首を振った。

…なんとなく嫌な予感はしていたのだが、やっぱりか。

雄二郎の肩に乗り、ツンツンと嘴でその側頭部をつついている真っ黒なフクロウに呆気に取られている役員たちと、ドアを開けた由貴。

その後ろから、暁に取っては聞き慣れた呑気な声がする。


「佐上、お客さん誰だったの?」
「あ、……って、おい、春氷! お前のフクロウが、雄二郎襲ってるぞ!?」
「んー?」


由貴の言葉に玄関口まで出て来た春氷は、雄二郎の頭をせっせとつついているフクロウを見て小さく笑う。


「あー、ヨルは人見知りだからなぁ。……こらヨル、戻っておいで」


春氷が一言呼びかけるだけで、雄二郎の肩に爪を立てて掴まっていたフクロウがふわりと其処を離れる。

乱暴に掴まっていた雄二郎の時とは違い、優しく優雅にその肩に止まったフクロウに、ぽかんとしていた役員たちもやっと口を開いた。


「…ちょっ、何事なの!?」
「うわっ、それ本物のフクロウですか?」
「……というか部屋! この部屋一体どうなってるんですか!?」


口々に叫ぶ役員たちに、由貴が諦めたように首を振り、春氷はやんわりと笑った。

そんな二人の背に広がる部屋。……一言で言うなら、其処は半分程がジャングルだった。


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