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「…あれ、セイン。もしかして高い所怖いの?」
「――! そっ、そんな事……ないっ。ただ土が遠いから、あんまり気分良くないってか、合わないってだけで……」
「つまり、怖いんだね」
先程ヘンリーに抱き締められていた時は赤味がかっていた頬は、今はすっかり血の気が引いて蒼白だ。
言い訳しようとするもヘンリーに言い切られてしまい口を噤んだセインと、相変わらず特に気にした様子もなく風を操りセインを地上4、5mといった位置に留め続けているアリア。
自分でどんな方法でもいいから助けて欲しいと言った手前あまり文句も言えないし、しかし身一つで宙に浮かんでいるこの状況はやっぱり怖いしで、既にセインはうっすらと涙目だ。
「仕方ないね。流石に私も風使いの術に直接干渉する事は出来ないけど……」
どうしていいのか分からず半泣きのセインに、ヘンリーが苦笑いしてゆるりと首を振った。
ヘンリーがパチリと指を鳴らすと、彼の足元に氷塊が出現する。
空気中の水分を結晶化して作られたそれを足場に、ヘンリーはセインに手が届く位置まで上って行く。
「ひゃっ!?」
「大丈夫。怖くしないよ」
肩を揺らすセインに、邪気の無い穏やかな微笑み。
薄く涙の滲んだカーネリアンの瞳の際を優しく指で拭い、頭をふわりと撫でる。
「ほら、怖い事はしないからこっちにおいで? 高い所、怖いんでしょ?」
「……」
元は彼から逃れる為にアリアに助けを求めたのに、結局ヘンリーに助けられているとは本末転倒である。
そう思いつつも、結局この不安定な状態に耐えられず言われるままに彼の差し出す腕へと身を預けてしまった。
すっぽりと躰を覆う体温に相変わらず心臓は落ち着かないが、地に足の付かない宙に浮いた状態よりは幾分マシである。
「…はぁ…」
先程とは反対に、正面からヘンリーに抱き込まれたセインは、もう抵抗する気力もなくしてくたりと彼の胸板に頭を預けた。
その細面から一見華奢に見えはするが、ローブの下は案外しっかりと筋肉が付いているようだ。
満足げに微笑みながらセインの甘いココア色の髪を撫でているヘンリーと、抵抗を止めてされるがままになっているセインを見て、ローブのポケットから飴玉を取り出して頬張っていた少女は首を傾げる。
「……結局セイは、何したいの?」
「……、なんかもう、よく分かんない…」
不意打ちの抱擁に抵抗したかったのだろうが、高所のショックで人見知りが吹っ飛んでしまった。
ついでに此処がアカデミーの廊下で、それ程ではないにしろ多少の人目がある場所だという認識も吹っ飛んでしまったので、セインはヘンリーにされるがままである。
12/4/21
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