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short
セインとヘンリー U

「――やっと見つけた」
「…っ!?」


人通りの少ない廊下を歩いていると、ふと背後に気配。

囁き声が耳に吹き込まれるとほぼ同時に、両脇から腕が差し込まれて逃げる間もなく拘束される。

慌ててがばりと顔を上に向ければ、背後から自分を抱え込むようにして微笑む長い銀髪を靡かせた美貌の青年。


「久しぶり、セイン」


全然会えないから、探してたんだよ。と、やけに甘ったるい響きで耳元に吹き込まれる声音に、意識せずとも肩がびくりと震える。

大体、人気が少ないとはいえ、此処は学生の行き交う廊下の真ん中だ。急に背後から抱き締めるだなんて、何事だ。


「…ちょっ、腕、やだ…。離して……!」
「嫌だよ、せっかく会えたんだもの。離したらセイン、逃げちゃうでしょう?」
「当たり前っ……!」


急に廊下を行く小さな男子生徒を背後から抱き止めた美青年の姿は、既に廊下を行く学生たちから注目を浴びている。

……というか、隣を歩いていた筈の友人は何をしている!


「アリア!」
「…ん?」


選択科目からの帰り道、隣を歩いていた筈のシルフクラスの少女は、ヘンリーに後ろから拘束されているセインの数歩前で立ち止まって此方を見つめていた。

感情の読みにくい大粒のエメラルドの瞳が、じっとセインを見返す。


「ぼーっと見てないで助けてよ!」
「…ん。どうやって?」


自力では逃げられないだろうと知りながらもじたばたともがくセインと、穏やかな笑顔のまま力だけは強いヘンリー。

セインは必死の様子だが、端から見ていると案外ほのぼのとしている光景である。アリアはいつも通り、ぼんやりとした声で訊き返した。


「どうやってでもいいから! とにかく、僕をこの人から助けて!」
「…ん」


必死の声で言ったセインに、アリアはこくんと頷く。

小さな少女が何をするのかとヘンリーがそちらへ意識を向けた瞬間、アリアが軽く人差し指を振りふわりと風が渦巻く。


「っ、うわぁぁっ!?」


あがったのは声変わりしきらない、少年の悲鳴。

ヘンリーが回した腕とセインの躰との間に突如として風が取り巻き、ヘンリーの腕が剥がれた瞬間ふわりとセインを宙に浮かび上がらせその腕の中から脱させてしまった。

腕から逃れてしまった躰にヘンリーは肩をすくめるが、未だに宙に浮かんでいるセインはそれどころではないらしい。


「ちょっとアリア! 何するの!?」
「ん、助けた」
「確かに助かったけど! 何で空中で静止させたままにしておく必要があるの!? 此処、意外と高い!」
「でも下ろすと、多分また捕まるよ?」


淡々とした声で言うアリアと、心なしか先程と比べると青ざめた顔をしているように見えるセイン。

自分が腕を伸ばしたところで捕まらない位置にふわふわと浮いているセインを見上げ、ヘンリーは首を傾げた。


12/4/20

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