short
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* * *
「…ほら」
「…?」
2月14日。いつものようにエリオットから差し出されたものが、いつもとは違っていて、アリアはぱちりとエメラルドの瞳を瞬かせた。
「…お花…?」
「あぁ、そう見えるだろ?」
「…?」
どこか含みのある物言いに、アリアは首を傾げる。
透明なケースに入れられた、小さな赤い薔薇の花。…けれどよく見れば、生花とは違う独特の光沢を纏っているような…?
不思議そうに差し出された箱を見つめるアリアに、エリオットが小さく笑う。
「飴細工の花、だとよ」
「あめ…?」
ぱちぱち、簡単に零れてしまいそうな大きな瞳を瞬かせ、アリアは箱の中の花をしげしげと見つめた。
相変わらず触角のようなあほ毛の跳ねた金髪をくしゃりと撫でると、アリアはそっとエリオットから箱を受け取った。
一見すれば本物と見紛うような精巧な飴細工を、興味深そうに見つめたまま。
思った通り、普通の花を渡すよりもずっと気に入ってくれたようだと、エリオットは彼女の髪を撫でながら小さく笑った。
「気に入ったか?」
「…うん。ありがとう、リオ」
ぺこっ、と小さな頭が下がる。嬉しい気持ちを示すかのように、金色の触角がぴょこりと揺れた。
飴細工の入った箱をぎゅっと抱き締めるように抱え、アリアはこてりと首を傾げる。
「…でも、どうして…?」
「…は?」
きょとんとしたように揺れる深緑色。
今日、エリオットが薔薇の花を模した飴細工を贈る理由を、全く思い付かないといった瞳だった。
…やや鈍臭いところがあるとはいえ、アリアは別に馬鹿な訳ではない。勉強はそれなりに出来る筈だし、世間の常識くらい普通に知っているかと思っていたが、まさか…。
「…アリア、お前まさか、2月14日の祭、知らねえのか?」
「……?」
……確定である。ぱちぱちと上下した瞼と胡乱げな瞳は、「何それ?」と雄弁に告げていた。
アカデミーの周囲を始めとする都では商戦的な意味でも浸透している行事だが、田舎の方には馴染みの無い地方もある。…ましてやアリアは、ドラゴンを鉈で捌くような豪快で独特な文化を持つ地方の出である。都の常識が通じないのも、ある意味では納得がいく…のだが。
珍しく気を使って彼女への贈り物を選んだ身としては、何というか寂しいものがあるというか、脱力してしまうというか…。
「…まぁ、お前が悪い訳じゃねえけどさ…」
「…?」
急に疲れたようにため息を吐いたエリオットに、飴を抱えたアリアが首を傾げる。
仕方ないから、と2月14日の由来と行事をかいつまんで説明してやると、アリアはぱちりと瞳を瞬かせた。
「…好きな人に、お菓子をあげるの?」
「まぁ、女の場合はな」
「…でもリオ、お菓子はあんまり、食べないでしょ…?」
「…まぁ」
…それでも、アリア一人分の菓子くらいならたいらげるつもりはあるが。
そう言うと、アリアはゆるりと瞬き、腕の中の箱を見下ろした。
「……でも、リオはアリィが喜ぶから、飴のお花を選んでくれた」
「…あぁ」
「…だからアリィも、リオが喜ぶもの…作るの」
「ん?」
つん、とローブの袖を引かれ、エリオットは瞬きながら小さな彼女を見下ろした。
真っ直ぐに此方を見上げる、深いエメラルドの瞳。
「お夕飯…リオの好きなもの、作るから。一緒に食べよ…?」
ゆら、深緑の瞳が一瞬、どこか不安げに揺れた。
…愚かではないと思っていたが、やはりバカだ。エリオットが彼女の誘いを断る筈はないのに。
「あぁ」
くしゃ、金色のひよこ頭を撫で回すと、アリアは嬉しそうに息を吐いた。
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ホワイトデーSSな、2月14日のエメラルドですw(ややこしい)
この世界の2月14日はバレンタインって名前じゃないですが、同じようなお祭りがある模様。男性が欧米仕様で、女性は日本仕様w …でもお菓子は寧ろ女性が贈られた方が喜ぶんじゃないかな、って思う!(笑)
飴細工とかって、綺麗なのは食べるの勿体ないですよねぇ…。アリアは多分、ひとしきり眺めた後は、ひと思いにパクッといきますけどww
12/3/14〜4/12(拍手掲載)
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