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short
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「ん……あぁ、ごめん。キミ、大丈夫かい?」
「……あ」


目が合った拍子に、向こうも自分に気付いたらしい。ぶつかり合った筈の額を、長細いたおやかな指がなぞって行く。

土ばかり触って少し荒れている自分のものとは違う、滑らかな指先。今もまだ至近距離にあるその美貌に、セインは狭い穴の中で必死に躰を捩った。


「っ、近い…! ちょっと離れて……!」
「え。あぁ…、そうして欲しいならそうしたいのは山々だけど、狭くて私も自由に動けないというか……。というか、何、此処…? 穴……?」


青年が身じろぎする度、長い銀の髪が揺れさわさわとセインの頬や首筋をなぞっていく。こそばゆいその感触に、セインはたまらずに叫んだ。


「いっ…いから、離れて!」


声と共に、魔法を発動して足元の土を動かした。…穴を掘る時に使った術の応用であり、地面を盛り上がらせ、穴の外へと出る事の出来るものだ。

一瞬で穴の外へと押し出されたセインは、驚いて呆然としている青年から慌てて距離を取った。

土の中で一人静かに過ごす事を好むセインは、その反動か他人と接する事があまり得意では無かった。初対面の青年といきなり至近距離で見つめ合って、平静でいられる筈もない。

きっちり半径3m程青年から距離を取り、セインは威嚇する小動物のような顔をしながら相手を見上げた。

穴に落ちたせいで土に汚れていても、ぽかんと驚いた表情を晒していても華やかなその容貌は、もしかしたらそれなりに有名人なのかもしれなかった。生憎友人の少ないセインは噂に疎い為、そうだろうと推察したところでその真偽を確かめる術はない。

ただ、制服のローブに着いた紋章からして所属は水クラス。セインにはそれだけが読み取れた。


「……えー、と?」
「……、其処、僕の掘った穴。落としてしまったのなら、一応ごめんなさい」


相手の不注意もあっただろうが、アカデミーの片隅に人一人をすっぽりと収める穴を掘ったのはセインだ。首を傾げる青年に、素直に頭を下げる。


「……あぁ、土クラス……」


海の底のような深い蒼の瞳をきょとんと見張っていた彼は一言、セインを見てそう呟いた。そんな一言が納得したように出る程度には、土の“変わり者”は定着したイメージだ。

土に汚れた頬を掻いた青年は、未だ彼から距離を取るセインに一歩近付いた。同じようにセインも、一歩後退る。


「……どうして逃げるんだい?」
「……、別に」


明確な言葉に出来る理由は特にない。ただの人見知りがそうさせるだけだ。


「怒ってる訳ではないから、逃げないでくれると嬉しいのだけど」
「……」


ふ、とその華々しい容貌を綻ばせて微笑まれると、なんとなくその言葉に従わざるを得なくなる気がした。

一歩、また一歩と此方へ近付いてくる青年を、セインは無意識に逃げようとする足を抑えてただ見上げる。

やがて自分のすぐ目の前に立った彼が此方を見下ろすので、視線が合う事を嫌ってふいと視線を逸らす。頭上で、くすりと笑い声が聞こえた。


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