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short
セインとヘンリー T

土属性の素質を持って生まれたせいだろうか、セイン=ウォレットは昔から“土”というそのものが好きだった。

土の感触が好き、土の匂いが好き、土に囲まれた空間が好き。

…故にセインは、よく地面に穴を掘った。2メートル程の、自分の躰がすっぽりと埋まる程の穴を掘り、授業などが無い余暇の時間はその中で過ごす。

そんな様子を見て、学年で唯一セインの友人と言えるシルフクラスの少女は容赦なく「ヘン」だと言い切った。


「……いや、今思い出してもアリアにだけは言われたくないよね」


今日もセインは、放課後の時間を自分で掘った穴の中で過ごす。

視界をしっかり覆う程の大きな穴に嵌れば自力では上って来られないのではないだろうかと思われるかもしれないが、そこは曲がりなりにも土の素養を持つ者、自分の足元の地面を操る事で穴から脱する事は可能である。

掘った穴の中、周囲を土の壁に囲まれながら、セインはその場所で教科書を開く。ノーム寮の自室ではなく、此処で課題を終わらせる事も常の事だ。

自分が変わり者であるという自覚は、セインには一応ある。『変質』の性質を持つ土属性を操る者は、大概は“変わっている”と称される人間である事が多い。セインもまた、一般的な、“変わり者”である土属性術者のその例に漏れないだけだ。


「…んー、この理論の根拠は何処に載ってたかな…」


穴の中で一人、普通に課題をこなすセインは、このほとんど人の来ない筈のアカデミーの片隅に響く足音には気付かない。

また、穴の外を歩く人物も、地面にいきなり変わり者の少年が掘った穴が開いている事に、気付かない。


「――っ、うわぁぁっ!?」
「!? わぁぁっ!!」


人気の無い、アカデミーの片隅。二人分の悲鳴が重なりあって響いた事は、きっと当人たち以外誰も知らない。

その様子をセインの友人の少女が見ていたのなら、「…今まで事故が起こってなかった事の方が、奇跡」とでも小さく呟くのだろうが、それはさておき。

地面に穴が開いているなどと全く思ってもいなかった青年は、見事に落ちた。穴の中に居たセインは、突如降って湧いた青年と見事に衝突した。

――ゴツン! 鈍い音と共に、額に走る鈍い痛み。薄暗い穴の中に居る筈なのに、チカチカと視界に星が散った。


「っう……」
「いっ…っ…」


鈍い痛みと、呻き声。

痛みで状況を把握しきれないセインがゆっくりと視線を上げると、流れる銀色の髪がさらりと頬を滑った。


「――!?」
「い、たた……一体何事……」


ぼやくような声と共に持ち上がった瞼の下には、海の底のように深く透き通った蒼。

至近距離でかち合ったその色彩に、セインは息を呑んだ。


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あきゅろす。
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