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「…俺だって、毎回稜平に付き合っていられる程暇じゃねえんだよ…!」
要するに、丸投げである。
なんだかんだ高校入学以来稜平と行動を共にする事の多い満朔は、いつの間にか押し付けられてしまった“稜平の一番の友人”という貧乏くじに毎度嘆いていた。
「ミッサぁ、『美しい』って動詞だったっけ?」
「形容詞だ、バカ! “い”で終わってんだろ」
「おー」
言いながらプリントを叩き示すと、頷いた稜平が答えを書き込む。…教えた事には素直に頷く稜平だが、次回までそれを覚えているか怪しいところだ。
「ていうかお前まだ品詞覚えてねえの……」
「覚えてなくても、何となく日本語話せんじゃん?」
「まぁ、それは確かにそうだけど…」
それでも、学生のうちに、日本人としては覚えておいた方がいい知識の一つだ。
そう言おうとも、面倒臭そうに机に肘を付いた稜平は聞く耳を持たない。
「必要ねえじゃん」
「あのな…」
「だって、ミッサは覚えてんだろ?」
「あぁ?」
眉を上げる満朔を横目で見やり、稜平は何でもないように続ける。
「ミッサが覚えてんなら、俺は別に覚えてる必要ねえよ」
「……俺はお前の辞書じゃねえっての」
大体、稜平と比べれば成績は良い方だとはいえ、そんなに万能ではない。満朔だって、人並みに苦手科目もあるただの一生徒だ。
ため息を吐いて先程稜平の買ってきたミルクティーを飲もうとすると、横からすっと伸びてきた手がそれを奪った。
「あっ」
「……、一口」
そのまま止める間も無く、奪われたミルクティーは満朔のそれよりも大分大きい“一口”で飲まれてしまった。
「…お前の一口はデケえんだよ」
悪びれもしない稜平の様子に、満朔はため息と共にそう吐き出した。しかし稜平が満朔の飲み物に手を出すのはいつもの事なので、今更これ以上とやかく言ったりはしない。
ミルクティーのキャップを締め直した稜平は、そのまま自分の分のペットボトルを満朔に差し出した。“一口”貰ったのだから、“一口”あげる。…これも、いつもの事だ。
ため息を吐きながら、満朔は差し出されたそれを受け取った。稜平が自分用によく買っているのは炭酸飲料で、満朔にとっては自分ではあまり好んでは飲まない…少々苦手な飲み物だ。
苦手ならば別に飲まなければいい。そうは思いつつも、稜平が差し出したペットボトルをいつも結局は口にしてしまうのだった。
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