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short
ラズベリーソーダ

「……遅いっ! お前、一体どんだけ遠いトイレまで行ってたんだよ!?」
「……あー、一階の食堂前まで?」
「何でんな遠いトコ行ったんだよ!? 此処四階だろうがよっ!」


放課後の教室。ほとんどの生徒が下校、もしくは部活動に向かっただろう中でたった一人教室に居た黒髪の少年、上浦満朔(かみうら みつさ)は、教室にもう一人分だけ残っていた鞄の主、ドアの前にやっと戻ってきた加賀屋稜平(かがや りょうへい)に苛々と怒鳴りつけた。

黒髪黒眼のきっちりした印象を与える容姿の満朔とは対照的に、明るい茶髪に着崩した制服とチャラけた印象を与える稜平は、苛立っている彼にがりがりと悪びれた様子なく頭を掻く。


「や、だって何処の自販機も売り切れだったからさ。結構探したんだぜ、ミッサの分」
「あ? お前、トイレ行ってたんじゃねえのかよ」
「行ったけど。ついでに飲み物も買って来た」


椅子の上にふんぞり返った満朔に肩をすくめ近付いてきた稜平は、こと、と机の上にミルクティーのペットボトルを置いた。


「ミルクティー。ミッサいつもコレだろ」
「あ、おう…」
「130円な」
「金取んのか! 奢れよ! 誰の為に居残ってやってんだと思ってんだ!」


稜平がお気に入りを買ってきた事で一旦はクールダウンした満朔の怒りは、その一言でまた再燃した。

彼の怒鳴り声など聞き慣れている稜平は、片耳を塞ぎながらひらひらと手を振る。


「それは後でな。俺今、給料日前だから金ねえの」
「……ったく。昼飯ぐらい奢れよ」
「おー。給料入った後ならいくらでも奢ってやんよ」


言いながら椅子を引き、机の上にバラ撒かれた小銭を受け取った。

再びプリントと向かい合う事となった稜平は、自分用に買ったペットボトルを開けながらため息を吐く。


「…ほら稜平、続き。問Cからだぞ」
「おー…」


シャープペンでプリントをつついた満朔に、気の無い声を返す。

二人が…というか、稜平とそれに付き合う形で満朔が放課後の教室に残っている理由。それがこの一枚の薄っぺらいプリントである。

軽薄そうだが男らしく整った容姿と付き合い易い性格、万能型の運動神経と、男女問わずに人気がある稜平なのだが……成績の方はいまひとつで。特に国語系の科目の成績は、クラスでも底辺級に悪いと言っていい。

そのお陰で、補習補講はしょっちゅう。けれど先生たちも毎回付き合っていられる程暇では無いから、プリントを一枚彼の親友と目されている成績優秀な少年に押し付け、勉強を見てやるよう頼んでいるのだが。


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