short trick and treat(11年ハロウィン) 「リオー」 石造りの廊下をぱたぱたと走る軽い音。 妙にトロいアリアが転ばないようにと腕を伸ばして受け止めると、エリオットはどうも彼女の様子がいつもと違うらしい事に気が付いた。 「アリア? なんだそりゃ」 「んー」 ぴょこりと一房の触覚が飛び出た、淡い金色の彼女のひよこ頭。その間から生えているように覗く、黒い三角耳の付いたカチューシャ。 エリオットがそれを指でつんつんとつつくと、アリアはふにゃりと笑う。 「とりっくおあ、とりーと!」 「お? …あー、なるほど、今日は前夜祭か」 彼女に言われるまで、そんな祭事などすっかり頭から抜けていた。 お菓子を要求する小さな黒猫にいつものようにポケットからチョコクッキーを出して渡してやれば、アリアは満足そうにもくもくとそれを頬張る。 「…つーか、これじゃいつもと何も変わらないな…」 「?」 アリアはそれは美味しそうにお菓子を頬張っているが、これではあまりにも日常風景だ。 せっかくの前夜祭、もう少しその日らしい事をしてもいいものではないか。 「…、アリア、お前“trick”って何をするつもりだったんだ?」 「ん?」 チョコレートクッキーの滓を桃色の唇の端に付けたアリアが、エメラルドの瞳をきょとんと見張って顔を上げる。 その口元を親指で拭ってやりながら、エリオットは唇を歪めた。 「悪戯、してもいいぞ」 「…え? お菓子、貰ったよ?」 「それじゃいつもと変わんねえからな。…アリアだから、特別に悪戯も許可してやるよ」 「……」 ぱちぱち、と大粒の宝石のような瞳の上で、瞼が幾度か上下する。 「…じゃあ、目つむって?」 「…あぁ」 さて、この小さな黒猫は一体どんな悪戯をしてくれるのか。 エリオットが言われた通りに瞼を閉じると、アリアが何やらごそごそとローブのポケットを漁っているらしい物音が聞こえた。 「…えいっ」 「――!?」 小さな声と共に、不意に吹き荒れる風。 間違いなくアリアの風魔法だろうが、目を瞑っている為何が起こったのかが分からない。 エリオットが瞼を閉じたまま状況把握に努めていると、背後で聞き慣れた声の大笑が弾けた。 「あははは! エリオ、なんだそれ似合わねー!!」 実はずっと居た、バカこと友人ランスの声だが、状況が未だに掴めないエリオットには何がそんなに彼の笑いのツボを捉えたのかが分からない。 「はぁ!? …アリア、目開けてもいいか?」 「ん」 彼女の許可をとって瞼を開けるが、エリオットの視界の限りでは目立った変化が分からない。 首を捻るエリオットの、その頭の上。 ローブのポケットをごそごそと漁って手鏡を取り出したアリアが、にこりと笑ってそれをエリオットに差し出した。 「…あぁん?」 「あははははっ! エリオに猫耳とか!」 エリオットの燃えるような赤髪の上、アリアの頭上に載ったそれと同じ形の、茶虎の三角耳。 「アリィとおそろい」 にこり、笑うアリアはご機嫌だ。無邪気で可愛らしい。 自分から悪戯を許可したのだし、無邪気な彼女を怒る気など毛頭無い。…が、後ろで未だに大笑いしているバカは、別だ。 「アリア、後ろのバカにも悪戯していいぞ。俺が許可する」 「あはは……えっ?」 「ん」 笑い声を途切れさせて此方を振り返ったランスに、アリアの風が取り巻く。 先程は目を瞑っていた為何が起こったのかと思ったが、何て事はない、ただ単に身長的な問題で手が届かないから魔法を使って彼らの頭に猫耳を着けているのだ。 見事なコントロールでランスの頭上に収まった、三毛柄の三角耳。 「くくっ、お前も似合うじゃねえか」 「えっ、ちょっ!? …ええっ、何だコレ取れねえ!!」 笑われて頭上に手をやったランスだが、その三角耳は動く事なくぴったりと頭に貼り付いているようだ。 「…ついでに何か細工してんのか?」 「ズレたらかわいくないでしょ?」 アリアが無邪気に笑う。 彼女は本気で彼らの猫耳を『かわいい』と思っているのだろうか? 身長180cmを越えた男の猫耳など、単なる視覚の暴力だとエリオットは思うが、アリアはあくまでご機嫌だ。 ともあれ、遠慮なく大笑いしてくれたバカも同じ目に合わせてやって少しは溜飲の下がったエリオットは、珍しく終始にこにこと笑っているアリアの小さな躰を抱き上げた。 「リオ?」 「前夜祭はまだまだこれから、だろ? せっかくだから今日はお菓子もせしめて、悪戯もすんぞ」 「ん」 「手始めにラスターセンセのトコ行くか。あのヒト多分猫耳似合うぞ」 「ん」 小さな黒猫を抱いた茶虎猫がアカデミー中で悪戯をして回ったこの年の前夜祭が、後にアカデミーの伝説の一つと数えられるようになる事を、彼らはまだ知る由もない。 Happy Halloween! -------------------- 今年のハロウィンは、割と通常運転なエリオとアリアでw 餌付けはいつもの事なので、お菓子も悪戯も両方ですww ← アリアが何でそんなに何個も猫耳持ってるのかっていうと、クラスの子に貰いました(笑) ひよこの子はクラスメイトにも可愛がられてますw アリアはエリオの猫耳も本気で可愛いと思ってますよ、おそろいで喜んでますよ(爆) 11/10/31 ≪ ≫ [戻る] |