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* * *
思いの外テキパキと、アリアは材料を切り分け料理を作っていく。
ドラゴンを豪快にかっ捌いた後(衝撃映像にて、詳しい描写は避ける)、食堂に肉を持ち込みおばちゃんたちから調理具を借りると、アリアは早速せっせと調理を始めた。
食堂まで付いてきたエリオットは、それを頬杖をかいてぼんやりと見守っている。
素材としても貴重品であるドラゴンの骨でダシを取ったスープに、根菜類を中心とした野菜をごろごろと切って肉と一緒に煮込む。
危なっかしかったら止めようと思っていたエリオットの心配を余所に、アリアは意外に慣れた手付きで包丁を扱っている。
「……普段から料理とかしてんのか?」
「…お家で、お母さんのお手伝いしてた」
「ふぅん…」
変なところ鈍臭い為、勝手に彼女は不器用そうだと思い込んでいた。
テキパキと料理をするアリアは、何だかエリオットの知る彼女とは別人のようだ。
……、実際、エリオットは彼女の事などほとんど知らないに等しいのだが。
(…そういえば)
先程掠り傷を負った頬をなぞり、エリオットはトントンとじゃがいもを切っているアリアを見つめる。
「アリア、訊いていいか?」
「…ん?」
曇りのない円らなエメラルドグリーンの瞳が、真っ直ぐにエリオットを見返す。
「…お前さっき、“水”の治癒魔法を使ったよな?」
……この世界において、傷を癒やす“治癒魔法”が使えるのは、“水属性”を持つ者のみ。
シルフクラスに所属し“風魔法”を使うアリアが、本来使える魔法ではない。…が、しかし先程アリアが治癒魔法を使ったのは確かだった。
微かに眉を寄せたエリオットを見て、アリアは少し困ったように首を傾げる。
「……アリィは少し、特殊なのだって」
「……」
「小さい頃から、アリィは属性なんて気にしてなかった。…でも、みんなは違うのだって。一つしか、使えないのだって」
この世界では普通、魔力を持つ者は火水風土、その中の一つの属性しか持たない。一つの要素に属する魔法しか扱えない。
けれど、アリアは違うのだと言う。属性など気にせず、縛られず、様々な要素の魔法を扱うと。
包丁を置いたアリアが、鍋を置いた釜戸の炎を土で消し、また再び火を付けた。
…火も、水も、風も、土も。彼女の手の内に。
「……シルフクラスに決めたから、いつもは風しか使わないけど」
「…その気になれば、別のクラスにもなれたって事か」
「……、ナイショ、ね? リオにだから、教えたよ」
しぃっ、と立てた人差し指を桃色の唇に添えて。
11/8/27
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