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short
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「…ねー、レイト、おなかすいたァ」


くい、と稚(いと)けない仕草で服の裾を引かれ、レイトは身支度を続けながら振り返った。

そこにはレイトの腰辺りまでの身丈を伸ばし、ふわりとした亜麻色の髪を揺らして小首を傾げる子供。だぼだぼとしたサイズの合わないシャツからは、寸足らずな小さな脚が覗いている。

レイトは一度身支度の手を止め、まだ幼く見える子供を見下ろす。


「…冷凍庫に何もなかったか?」
「あった。でももう食べちゃった」


ホラ、と子供は手に持っていた空のタッパーを示した。

解凍処理は自分でしたのだろう、中には食べモノの欠片は残っておらず、ただ赤い残り汁だけが薄っすらと底を伝っている。


「ねぇ、レイトこれからオシゴトでしょ? ユラも連れてって?」


ちょこん、と子供──ユラは可愛らしく首を傾げる。

レイトはユラの仕草に深くため息を付き、形良い眉を寄せながら言う。


「…お前を連れて行くとロクな事がないから、出来れば留守番してて欲しいんだが」
「できないからイヤー、連れてってー!」


ユラはレイトの腰にしがみつき、首を振ってダダをこねた。

…これが普通の子供なら引き剥がすのは簡単なのだが、ユラの場合はそうはいかない。

レイトは片手で額にかかる黒髪をクシャリと乱し、再び深いため息をつく。


「…わかったから、まずソレを片付けて、着替えて来い。そうしたら連れてってやる」
「わぁーい! じゃ、ユラおかたづけしてくるー」


ユラが手に持ったタッパーを示して諦めたように言えば、ユラは無邪気に声をあげた。もう一度レイトの腰に抱きつき、パタパタとリビングに走って行く。

レイトは息を付きながらそれを見送り、自分の身支度を手短に整えた。

…どうせユラは自分一人で準備は出来ないのだ。結局、レイトが手伝わなければいけない。


「…ねぇ、レイト、お洋服着れないよぅ」
「……何でわざわざそんな着にくいヤツを着ようとするんだ」


案の定、奥の部屋へ行ってみればユラは困ったようにレイトを見上げてきた。

今まで着ていたレイトのシャツを投げ捨て、可愛らしい黒のドレスを振る。

“ドール”用のオーダーメイドドレス。…ユラの持っている服の中でも高級で綺麗な物だが、背中にチャックやらリボンやらがついていて、ユラ一人では着られない。


「お前、そんなの着て行ったってどうせ汚すだけだろう」
「でもこれがいいの。…ねぇレイト、着せて?」


くい、と持っていたドレスをレイトに突き出す。


…突き出したその腕には、人間には到底あるはずもない箇所。



──…球体間接



「……まったく、手のかかる“人形”だ」


レイトは諦めたように肩をすくめ、ユラの躰を引き寄せた。


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あきゅろす。
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