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スメラギ
6

御門に肩車などされている鈴は、やはり目立つのだろう。人垣に囲まれていた翡翠も、気付いたように此方へ目を向けた。

彼とぱちりと視線が合った鈴は、満面の笑みを浮かべてひょいと御門の肩から身軽に飛び下りた。人垣の間を器用に抜け、彼の元へ向かう。

それを見た御門と雅弥がハッとして彼を止めようとしたが、届かない。


「翡翠先輩!」
「………鈴」


声をかけた鈴に、翡翠が応えるまでは僅かに間があった。

…こんな人目につく場所で、“自分”という存在と接触するのは、彼の為にならない。そう思ったからこその間だったが、けれど翡翠には鈴を無視する事など出来なかった。


──…何、あれ?
──会長様にあんなに馴れ馴れしく…
──しかも名前で呼ぶなんて…!


突然現れて高等部最大のカリスマである生徒会長に声をかけたという見慣れない生徒に、周囲の生徒たちからの敵意の視線が集まる。

…が、鈴はそんな事は露ほども気にせずに翡翠を見上げた。


「此処で会えてよかったです。あの、翡翠先輩に渡すものがあるんです」
「あ、あぁ…。…とりあえず場所を移動しようか、鈴」
「あ、別に時間はかかりませんよ?」


少し困ったような、慌ててているような様子の翡翠に(けれど表面上は冷静に見えるだろう)、鈴はきょとりと首を傾げる。

手に持った小箱を渡してお礼を言うだけなので、時間はかからない。
…しかし翡翠が困っている理由は時間ではなく、それをまだ灯燈という空間に慣れていない鈴は察する事が出来ないのだ。

教科書と一緒に小脇に抱えていた箱を差し出し、ぺこりと頭を下げる。


「この前貰ったネックレスのお礼です。良かったら使って下さい」
「え…、あぁ」


唐突に差し出されたそれを受け取りつつ翡翠が目を見張るが、その様を見ていた周囲の生徒はそれどころではない。


──貰った、ってどういう事!?
──会長様って、プレゼントは受け取らないんじゃなかったの!?
──何なのアイツ!?


ギャラリーが喧しいようだが、何なのだろう。鈴にとってモブでしかない生徒たちの金切り声は、しかし鮮やかに彼の中でスルーされる。

が、翡翠にとっては鈴へ向けられる非難は不愉快極まりないものだった。
少し黙るように周囲を軽く睨み付け…、しまったと思い舌打ちする。

日頃から個人に執着する事がない自分が鈴を庇うような行動をすれば、彼が特別なのだと知られてしまう。
けれどだからといって非難を受ける鈴を放ってはおけず、翡翠は眉を寄せた。


「…翡翠先輩? どうかしたんですか?」
「いや……。鈴、これから学内であまり一人にはなるなよ」


後半の台詞は小さく囁くように。目を見張った鈴は、しかし素直に頷いた。


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