スメラギ
5
* * *
…さて、鈴が所謂『嫌がらせ』を受けたのには、一応それなりの下らない理由がある。鈴からすれば、意味の分からない、非常に下らない理由が。
入学式から数えて六日目、鈴が嫌がらせという名の喧嘩を売られる、その前日の出来事だ。
「…鈴、それ何?」
席に座ってちょこちょこと手に持った小箱を玩んでいる鈴に、後ろの席の雅弥が頬杖をかいたまま訊いた。
小箱を両手で包んだまま、くるりと鈴が振り返る。
「んーとね、お礼」
「…お礼? 何の?」
「ネックレスのお礼だよ」
「?」
にこにことご機嫌な鈴に雅弥は緩く首を傾げたが、重ねて問いを投げる前に廊下側にいた御門の声がかかった。
「おい、そろそろ移動すんぞー」
次の授業は移動教室。ぱらぱらと移動するクラスメイトに混じって、三人もぼちぼち移動する。
いつものようにデューイを頭に乗せたまま、手に教科書と小箱を抱えた鈴に、御門もまたそれを見やる。
鈴の小さな両手にもすっぽり収まる、小さな箱。中身は何なのだろうか?
「鈴、それ何?」
「お礼ー」
先程の雅弥と同じ問いに、鈴がまったりと答える。
御門がぱちりと瞬く。
「? 誰かに貰ったのか?」
「違うよ。これは僕があげる側なの」
「…さっきも訊こうと思ったけど、誰にあげるの?」
先程聴き損ねた雅弥も問う。
ふわりと微笑んだ鈴が答えようと口を開くが、それよりも先に廊下の先から黄土色の喚声。
──キャーッ!!
「……煩い」
愛らしく微笑んだ顔を今は思いっきりしかめ、教科書を脇に挟んで耳を塞いで呟く。
同じように耳を塞いだ御門と雅弥が、騒ぎが起きた方角を見やる。
「…この騒ぎ方は…、生徒会?」
「…黒髪の頭が見えるような…」
「むー…?」
それなりに発育の良い二人に比べ頭一つ分程小さな鈴は、まるで騒ぎの元など見えやしない。
ちょこちょこと懸命に爪先立ちをしようとする姿は可愛らしいが、成果の方は上がらないだろう。
見かねた御門がひょいと鈴を抱え上げ、自分の肩の上にその小さな躰を座らせた。
…15歳の高校一年生が同級生に肩車をされるとか、客観的に考えればかなりアレだが、見た目的には何の違和感もないのも凄いかもしれない。
ともあれ、御門に担がれた鈴は高くなった視界で騒ぎの元へ目を向ける。
「どうだ、見えたか?」
「んー……あっ! 翡翠先輩がいる〜」
「やっぱり会長か…」
人垣の中心には、5メートル程の空白を開けて艶やかな漆黒の頭。
いつ見ても綺麗なその人に、鈴の表情がぱっと綻んだ。
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