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スメラギ
4

* * *



教室に辿り着けば、案の定。机の上は嫌がらせパート2だった。

机の中は空だったからかゴミが詰め込まれ、机の上は誹謗中傷落書きの嵐。その上に置かれた、花瓶に入った菊の花。

鈴たちは比較的早い時間に登校する為、教室にいたクラスメイトたちはまだまばらだが、彼らは一様に戸惑ったような表情で此方を見守っている。

花瓶を取り上げた鈴が、しげしげとそれを眺め呟く。


「…んー、良い花だね」
「てか、ホントに手口が幼稚で女々しいね」


下駄箱に続き、鈴は全く嫌がらせなどには堪えていないようなので、雅弥はそれに安堵しながら淡々と毒を吐いた。

机の中を覗いていた御門が、中から白い封筒を引っ張り出す。


「鈴、手紙入ってた。…読む必要もなさそうだけどな」
「…へぇ、不幸の手紙とか?」
「もしホントにそうなら、そいつら全員小学生からやり直した方がいいね」
「とりあえず開けてみよっか」


剃刀などが仕込まれていたら危険なので、御門が自分の筆箱から鋏を取り出して封筒の端を切り落とした。

中から出て来たのは、緋文字のカード。


「『会長様に近付くな』、ねぇ…」


誹謗中傷で黒く染まった机の上に落ちたカードをつまみ上げ、鈴が冷めた声色で小さく呟く。細められた飴色が、一瞬だけ鋭利な刃物の輝きを宿す。

あまりに小さな呟きは、すぐ近くにいた御門と雅弥にしか聞こえなかっただろう。

カードを見て目を細めた鈴を、他のクラスメイトたちは心配そうに見守る。

クラス中の注目を集める中、鈴は無表情のまま手にしたカードを宙に放った。


「…<──爆ぜよ>」

「「──!!」」


パッと弾けた爆炎が、カードを一瞬で灰に返す。

突然の呪文発動に、鈴を見守っていたクラスメイトたちが息を呑んだ。

パラパラと降る灰を払い、鈴が呟く。


「僕、結構負けず嫌いなんだよね」


続けて発動された<リターン>が、荒らされた机を元の状態に戻す。

先ほど同じ呪文を見ていた御門と雅弥はさほど驚いてはいないが、成り行きを見守っていたクラスメイトたちは呆然だ。

周囲を凍り付かせている事などは露ほども気にせず、菊の花とカエルを腕に抱えた鈴は、笑う。


「…これから楽しくなりそうだねぇ…」


『売られた喧嘩は言い値で買う』、が永峰家の…というか母、律の教えだ。

ただの子供だと思って売られた喧嘩なら、100倍にして返してやろう。

ふふっ、といっそ明るく笑う鈴に、半冷凍の御門と雅弥が囁き合う。


「やべぇ、鈴が怖すぎる…」
「…やっぱり怒らせちゃいけない人種だったんだ…」


机の端に花瓶を置き、カエルをその隣に乗せた鈴は、だからそれをどうするつもりなのか。

恐ろしすぎて、訊けない。

朝からブリザードが吹き荒れる教室に、後から登校してきた生徒たちが不審げに顔を覗かせた。


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あきゅろす。
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