スメラギ
3
「…でもさ、下駄箱くらいなら直接の被害はないけど…」
「呼び出しとか、直接仕掛けてきたらヤバいんじゃないか?」
潰れかけている鈴を挟み込む形で顔を見合わせた雅弥と御門が、眉を寄せる。
その言葉にお約束のように威勢の良い言葉を返すのが、愛紗だ。
「そんなヤツら、オレがぶっ飛ばしてやる!」
「…まぁ、それが確実に出来るならそれに越した事はないけどさ…。愛紗が四六時中鈴についてられる訳じゃないでしょ?」
クラスだって違うんだし、と雅弥が肩をすくめ言った。痛いところを突かれた愛紗はうっ、と詰まる。
「むぎゅぅ…」
と、自分をぎゅむっと挟んで会話を続ける友人たちに、にこにこしていた鈴も流石に苦しくなったのか、そう小さく呻いた。
突然の奇声に一瞬きょとんとした三人は、低い位置にある潰れた頭にハッとして飛び退く。
「! わっ、わりぃ鈴!」
「ゴメン、普通に潰してた!」
「…はぁ…苦しかった…」
「ゴメンなリン、大丈夫か!?」
「ん、だいじょぶ」
はふ、と一度息を吐いた鈴は、頭に乗っていたカエルをいつの間にか潰れないようにと口に銜えていたデューイを頭に乗せ、カエルは肩の上に乗せた。
…どうでもいいがそのカエル、鈴は一体どうするつもりなのだろう。
鈴の考えなど見当もつかない三人は、それぞれ微妙な顔をしてその様子を見つめた。
友人たちがどうでもいい事を気にしているなど知らず、鈴は幼い面立ちにどこか不敵な笑みを浮かべて言う。
「…寧ろ僕は、直接攻撃に出てきてもらう方がラクだと思うよ」
「え?」
「どういう意味だ?」
パチリと目を見張る彼らにだけ聞こえる声で、鈴は大胆不敵に言い切った。
「尻尾を掴んじゃえば、頭まで引きずり出して叩きのめせるでしょ?」
「「………」」
その笑みは、彼らが知る幼く無邪気なだけのものではなく。
絶対的な力を持つ鷹の、鋭い爪の片鱗。
「僕は大丈夫だよ。…こういう女々しい手段に出るような、甘ったれたお坊っちゃんたちに負ける気はしないから」
「…い、意外と毒舌だね、鈴…」
「…鈴、お前…」
「リン、かっけー…」
にっこり、笑った表情はいつもと同じ無邪気な幼子。
けれど、先程一瞬だけ見せた研ぎ澄まされた刃のような殺気に、三人はそれぞれ顔をひきつらせた。
「こう見えてもね、実戦経験は割と豊富だから。だから、みんな心配しなくても大丈夫だよ」
「…まぁ、確かにお前は見た目より弱くはなさそうだけどさ…」
「気を付けてはおけよ?」
「友達なんだから、心配はするよ」
「ん、ありがとう」
みんな大好き、と微笑み返す鈴は、先程の殺気などすっかり拭い去ってしまっていた。
「さ、教室行こー」
どこか楽しげにぽてぽてと廊下を歩いて行く鈴に、三人は微妙な気持ちで後に続くのだった。
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