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スメラギ
2

雅弥の手の中でバタバタと暴れていたカエルが、ビョンと後ろ足で大きく跳んで鈴の頭の上に着地する。
お気に入りの場所を取られたデューイが、拗ねたように鈴の背中にぐりぐりと鼻先を押し付けているが、それどころではない。


「えぇぇ、ちょっと待って鈴! <巻き戻し>なんて、大学研究クラスに複雑な呪文じゃないの!? それなのに何で簡易詠唱だけで発動出来ちゃう訳!?」
「え? 出来ちゃうから?」


頭にカエルを乗せた鈴は、雅弥の剣幕にきょとんとしながら曖昧に首を傾げる。


「だから、何で出来ちゃうのさ!?」
「んー、でもコレは小さい物体が対象だし、意外と魔力も喰わないんだよ? まぁ、理論はそれなりに複雑だけど」
「……」


コテッと首を傾げる鈴に、雅弥は絶句する。

会話の意味が半分も理解出来ていない愛紗はいつも冷静な雅弥の剣幕にギョッとしているが、話が大体分かった御門は信じられないものを見るように鈴を見た。

魔法の“易しい”“難しい”は、単純に《クラス》が決定している訳ではない。

確かに高位呪文である程発動に多量の魔力を消費するが、呪文の造りが簡単であるのなら魔力さえあれば容易に扱う事が出来る。
逆に言えば下位にあたる呪文であったとしても、造りが複雑ならば魔力が足りていても発動しない事もある。

呪文を発動させるのに必要なのは、術者の魔力だけではない。その呪文の理論を“理解”しているかどうかが大きく関わり、それにより効力さえも変わってくるのだ。

鈴が使った<巻き戻し>は、それこそ大学研究クラスの知識を必要とする複雑な呪文。いくら《ウィザード》であるとはいえ、高校生がほいほいと使うものではないのだ。


「…首席だから頭良いんだとは思ってたけど、こんなに…?」
「鈴、高校来る意味あったのか…?」


驚愕八割、関心二割ほどで半ば放心状態の雅弥と御門が呟く。

二人の台詞に、何事もなかったかのように上履きを履いた鈴がフルリと首を振る。


「ガッコウは、何も学問をお勉強する事だけが全てじゃないでしょ?」


あっさりとそう言い切る鈴に、彼らは目を丸くする。


「みんなと一緒にご飯を食べたり、おしゃべりしたり、遊んだり。そういった事の方が、僕にとっては有意義なコトなんだ。…ガッコウに来て、みんなと居れて、此処に来た意味なら充分だよ」


ニコッと微笑んで言った鈴に、三人は暫し言葉が出ない。

一番最初に復活したのは、勢い良く鈴に飛び付いた愛紗だ。


「〜っ、リン! お前ホント可愛いな!! 大好きだっ!!」
「僕も愛紗君大好きだよ〜。もちろん、御門君も雅弥君も」
「あー、今のは不覚にもキュンときた。可愛いねぇ、鈴」
「あぁ、俺らもお前が好きだからな」


愛紗に続き、雅弥、御門までもが鈴の小さな躰にしがみつく。

三方向から抱きつかれた鈴は、半ば埋もれて潰れながらもニコニコと嬉しそうに笑った。


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あきゅろす。
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