スメラギ
楽しい学園生活
* * *
波乱の入学式の日から早一週間。
いつものように420号室で鈴の作った朝食を食べ、まったりと登校してきた四人は、昇降口で鈴が開けた下駄箱を見て動きを止めた。
「おー…」
「うわ…、コレは酷い」
「やっぱ昨日のアレのせいか…!?」
「っ、誰だよこんな事したヤツ! オレがぶっ飛ばしてやる!!」
ズタズタに引き裂かれた上履きの上で、巨大なガマガエルがゲコリと鳴いている。
そんな様を見た鈴は間延びした声を上げ、雅弥と御門は顔をしかめ、愛紗は周囲を見渡して憤慨した。
「わー、おっきなカエルさんだなぁ。こんにちは〜」
それぞれに整った顔を歪めた友人たちなどどこ吹く風、鈴はマイペースにガマガエルを抱き上げた。
手の中でゲコッと鳴くカエルに、ふわりと笑う。
「ふふ、可愛い」
「いや、可愛いかな、それ…」
「ていうかお前、ココはショック受ける場面とかじゃねぇのか…?」
コツン、と両棲類の湿った肌に額を擦りつける鈴に、雅弥と御門が毒気を抜かれたように呟いた。
周囲を威嚇して拳を振り上げていた愛紗も、目を丸くして鈴を振り向く。
「リン、大丈夫なのか…?」
「あぁ、コレってもしかしなくてもアレだよね。『イジメ』ってヤツ! トゥシューズに画鋲入れられたりするんでしょ? お母さんの漫画で読んだよっ」
カエルを抱えたまま「へぇー、すごーい」と興味深げに荒らされた下駄箱を覗く鈴に、本気で心配していた三人はため息を吐いた。
マイペースなのは知っていたが、イジメられてワクワクしているのもどうなのだろう…。
「…てか、随分レトロなテンプレートだな、トゥシューズとか…」
「こういうのが少女漫画の王道なんだって、お母さんが言ってた」
「まぁ、間違っちゃいないけどね…」
あくまで楽しげな鈴に、怒る気も失せた。
ため息を吐いた三人は、けれど引き裂かれてしまった上履きに困ったように鈴を見る。
「あんま鈴は気にしてねぇみたいだけど、上履きはどうすんだ?」
「職員室行ってスリッパ借りて来ようか?」
言いながら踵を返そうとしたフットワークの軽い愛紗を、鈴が緩く首を振って制する。
「あ、んーん、大丈夫。今直すから」
「直す?」
どうやって、と訊く雅弥に、ちょっとこの子お願い、とガマガエルを押し付けた。雅弥の顔が微かに引きつったが、鈴は気にせずに下駄箱に向き直る。
パタン、と一度蓋を閉じ、そっと人差し指を突き付ける。
「<左回りの針、逆さまの弾機──…巻き戻し(リターン)!>」
簡易詠唱の後弾けた閃光に、思わずキツく目を瞑る。
一人飄々とした鈴がもう一度下駄箱を開けると、ズタズタにされた上履きなど影も形もなく、いつも通り、そこは荒らされる前の状態に戻っている。
「? 今の…?」
「時間を、戻した…!?」
きょとんとする愛紗に対し、驚愕したのは雅弥。鈴が何をしたのか理解出来たか出来ないか、頭の出来の差である。
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