スメラギ
7
彼が大きな正面扉を開ければ、中にはこれまた広く大きな廊下が広がっていた。
「ふあー……」
その様に、鈴はやはりお城だと思った。もしくは貴族のお屋敷。
よし、それ良い、それで行こう。
頭の中で勝手な結論を出した鈴は、歩き出した翡翠に続いて建物の中へ踏み出した。
その、とても“学校”の敷地内には見えない内装に、きょろきょろと周囲を見渡しながら歩く。
「……よそ見して歩いていると、転ぶぞ」
遅れがちになっている鈴を振り返り、翡翠が保護者のような言葉をかけた。
その気持ち自体は嬉しかったが、鈴はなんとなく不満で唇を尖らせる。
「…僕、そんな何もないトコロで転ぶような子に見えます?」
「……そうだな、何か危なっかしい」
「む、僕そんなにドジじゃないですよ」
真面目な顔をしてあっさり肯定した翡翠に、全く悪気はなさそうだ。
そんな彼に、鈴はますます拗ねて軽く膨れっ面になる。
「僕、そんなに子供じゃないですよ」
「…その言い方が、充分子供に思えるがな」
「むぅ……」
鈴が拗ねている事に気付いた翡翠は、柔らかく笑いながらからかうように返した。
鈴はその言葉にぷぅっと頬を膨らませたが、やがてくすりと笑顔になる。
「…さ、行くぞ」
「はい」
柔らかい、どこかくすぐったい空気を纏ったまま、また廊下を歩き出す。
きょろきょろと周囲を見渡す鈴に合わせ、翡翠は歩調を落としながら軽い説明を始める。
「一階は事務室や職員用の資料室とかがある。事務室はともかく、資料室なんかは教師に雑用でも押し付けられない限りは、生徒には用がないと思うがな」
「こんな広そうな部屋の整理とか任されたら、大変そう…」
「罰則でも受けなければ、そんな事はしないと思うぞ」
資料室、と示された其処はかなり広く、膨大な量の資料が保管されていそうだ。
鈴の呟きに翡翠が肩をすくめて返し、やがて廊下の突き当たりが見えてくる。
「エレベーターホールだ。普通は特別な許可がなければ、一般生徒は立ち入れないし、立ち入らない」
「へー…」
壁と同化している白い扉が二つ。
上昇の上向き三角を押し、開いた手前の扉に乗り込む。
入り口脇の階数のボタンを押す前に、翡翠はそっとその綺麗な手をボタンの下側にかざした。
「……?」
ボタンパネル全体が淡い光を放ち、そうしてから翡翠は初めてボタンを押した。
傍らで見ていた鈴は、興味をそそられて呟く。
「今の……」
「ん?」
彼が手をかざした瞬間に魔力が発動したのは、この世界の者ならわかる。
パッと見だけでは、翡翠自身が魔法を使ったようにも見えるが、けれどそうではなく……。
「指環…?」
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