スメラギ
7
「鈴は食べないのか?」
「…あっはい、食べます!」
問えば、気付いたように顔を上げた鈴がパッと掴まれた手を離してバスケットをあさった。
離れてしまった鈴が少し残念でもあったが、このままでは食事のしようもないので仕方ない。
まだほんのりと頬が赤い鈴が噛るのは、クリームチーズと苺ジャムのベーグルサンド。ちなみにチーズもジャムも自家製である。
自分を見て微笑む翡翠と目を合わせるのが気恥ずかしく、鈴が膝元に視線を落とすと、バスケットに頭を突っ込もうとしている使い魔を見付けてしまった。
「…デューイ、フィナンシェは後でだからね」
大きな鈴を着けた首環を掴んで、デューイを膝の上に連れ戻した。
基本的に使い魔の幼竜にはかなりの自由を許しているが、つまみ食いは御法度である。
「あ、オヤツにフィナンシェもあるので、食事が終わったら食べましょうね」
「…あぁ、ありがとう」
食事をしながら鈴と使い魔のやりとりを微笑ましく眺めていた翡翠は、顔を上げた鈴を目を細めて見つめた。
小さな薔薇色の唇の端辺りに、食べていた苺ジャムが少し付いている。
「…鈴、ジャムが付いてる」
「ふぇ? 何処です?」
「此処」
ぱちぱちと瞳を瞬かせる鈴に手を伸ばし、指先でそっと唇を拭った。ジャムを掬ったその指を、今度は自分の口へと運ぶ。
「…………」
「…………」
そうしてから、気付く。いくらなんでも、これはやりすぎたかもしれないと。
ころころと色んな仕草と表情を見せる鈴が自分にとっては可愛く、彼の見た目が子供っぽい事もあって、ついつい変な風に世話を焼いてしまった気がする。
飴色の大きな瞳を更に大きくしたまま固まってしまった鈴に、翡翠もまた言葉を失ってしまった。…これはどうフォローするべきであろう。
暫し続いた妙な沈黙を破ったのは、先程から頬を赤くしっぱなしの鈴だ。
「……翡翠先輩は……、」
「あっ、あぁ…」
「……ズルいです」
「あぁ…、えっ?」
口を開いた鈴に動揺してつい曖昧な返事を返しかけたが、続いた言葉にどう答えたら良いのか分からなくなってしまった。
理由も分からぬままうろたえてしまった翡翠に、困ったように眉を下げた鈴が言う。
「僕のコト、子供だと思ってるんでしょう?」
「え、いや、そんな事は……」
「じゃあ、どうして?」
鈴は自分が子供のように扱われていると思ったのか、少し拗ねているようだ。
確かに鈴は翡翠よりは歳下とはいえ、たった一つの差だ。既に15歳、全くの幼児という訳ではない。
それでも、膨れ面になって拗ねて見せる様子は歳相応には見えない程子供っぽく、翡翠は苦笑いしてしまった。
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