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スメラギ
6

「…じゃあ翡翠先輩、どうぞ」


とりあえず、今はランチタイム。

今朝焼いたベーグルを使った、ベーグルサンドが今日のメイン。他はチーズやアスパラのベーコン巻きや、ミックスベジタブル、たこさんやうさぎさんのソーセージなど、エトセトラ。そのままピクニックが今日のテーマだ。

生ハムとレタスとトマトを挟んだベーグルサンドを差し出すと、翡翠は優しく微笑んだ。


「ありがとう」
「どういたしまして。さ、どうぞどうぞ」


にこにこと笑いながら、鈴は翡翠を促す。

誰かに“食べてもらう”という事は、料理をする者にとってはとても嬉しい事だ。
それに、学園に来るまでは鈴には家族以外に料理を振るまう相手が居なかったから、特に彼に食べてもらうのはとても嬉しい。

じぃっと窺うように見つめられた翡翠は少し困ったように鈴に微笑み返しながらも、受け取ったベーグルサンドを口に運んだ。

綺麗な容姿に似合う、行儀良い仕草でそれを咀嚼した翡翠に、鈴は遠慮がちに尋ねる。


「…どうですか?」
「あぁ、とても美味しいよ。ベーグルも手作りか? 凝っているんだな」
「あ、はい。気に入ってもらえたなら、良かったです」


柔らかい微笑み。真っ直ぐに褒められ、鈴は頬をほんのりと染めながらはにかんだ。

今朝御門や愛紗たちに褒められた時とはまた違った嬉しさに、鈴は微かに戸惑いながらも擽ったいような気持ちになる。


「…此方も貰っていいか?」
「あっ、はい勿論どうぞ!」


バスケットに入ったおかず類を、鈴はカラーピックに刺して彼の前に差し出す。

所謂「あーん」の状態だが、鈴は完全に天然だった。にこにこと微笑んで翡翠を見上げている。

これには翡翠も若干驚いたが、しかし嫌な気は全くせず、クスリと笑いながらその小さな手を掴んだ。
鈴の手を口元に引き寄せ、それに握られたアスパラのベーコン巻きを口に運ぶ。


「あっ…?」


手を握られ、初めて鈴は自分の行為に気付いたらしい。

自分の手から直接料理を食べた翡翠に、流石に恥ずかしいのか頬に熱を集中させた。

右手を翡翠に預けたままうつ向いてしまった鈴を、翡翠は覗き込むようにして囁く。


「…美味しい」
「あ、りがとうございます……」


小さな耳まで赤く染めた鈴が可愛らしくて、翡翠はまた笑みを深くする。

満たされるような、穏やかで倖せな気持ち。それを“誰か”の側に居る事で得られるだなんて、翡翠は思った事もなかった。

鈴だから、彼だからこそこんな想いになれる。


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