スメラギ
3
「…? 気のせい?」
そよぐ風に、首を傾げる。頭に乗ったデューイも、真似をして首を傾げた。
さぁっ、と花々を揺らし、また風が吹く。
──……ち……こ…ちへ…
「…違う、風の精…?」
掛けるように呟いてみて、今度は耳を澄ませる。
──…こっち、こっち…
「…やっぱり…。呼ばれてる……?」
風に混ざる、涼やかな声。風の精霊〈シルフ〉の少女のような愛らしい声が、確かに鈴を呼んでいる。
鈴はデューイと顔を見合わせ、風上の様子を窺った。
先程抜けて来た森とは反対方向、花畑の向こうはまだ未知の領域だが、どうだろう?
「呼ばれてるしなぁ……」
誰かれ構わず呼んでいる、という調子ではない。
〈彼女〉は鈴を呼んでいるのだ。
「呼ばれてるなら、行かないとねぇ」
誰ともなく呟いて、風上を見つめる。
どういうつもりなのかは分からないけれど、呼ばれているのだから行かなければいけない。元より、挑発には乗ってあげるタイプだ。
まぁ、シルフが鈴に害を成すとは思っていないが。
「…じゃ、行ってみようか」
傍らを飛ぶデューイを見、悪戯っぽく笑った。
風がそよいで、笑う声が鈴を呼ぶ。
美しい花畑を抜ける様に歩いていくと、今度は開けた草原へ辿り着いた。
一本生えた、主のような大樹の下からこっちへこっちへと誘う呼び声が聞こえてくる。
「……僕を呼んだのは、キミだね?」
木の下にいたのは、“一人”の可憐なシルフ。
そよぐ春風に乗せた彼女の呼び声は、鈴が此処へ来た事で一度止む。
シルフの少女は、鈴の声に振り返って微笑んだ。
『……そうよ、貴方に会いたかったの』
身の丈は、小柄な鈴の肩に容易に乗る程。シルフとしての大きさは平均だが、秘めた力は平均などではないだろうと鈴は判断した。
おそらく強い力を持った《ウィザード》と契約しているのか、<彼女>もまた強い魔力を秘めているのだ。
「…どうして、僕に?」
『だって、貴方は───でしょう? 私が生きているうちに出逢えるなんて、思ってなかったわ』
そう言う彼女は嬉しそうに笑っていたので、逆に鈴は少し困ったように笑った。
「…そんなに喜ばれる程じゃないよ…?」
『喜ばしいわよ! 私の相方が貴方に先に逢ったなんて言うから、思わず嫉妬しちゃったのよ!』
薄いライムグリーンの翅でパタパタと鈴の周りを飛んだ彼女は、鈴の目の前まで来て止まる。
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