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スメラギ
2

* * *



マーガレットにゼラニウム、チューリップ、スイートピー、プリムローズ、…エトセトラ。咲き乱れる春の花たちの間を、鈴はご機嫌に歩いていく。

通常生徒たちが通学路としているであろう道を一本外れるとそこは森であり、更にそこを抜けると花畑へと繋がっていた。

今時珍しいくらいの、一面の花々。咲いた花の種類から人工的に手入れがされているのだろうが、それでも美しい光景には違いない。

手近な花の花弁にそっと手を触れ、ふわりとした芳香を楽しむ。


「…学校がこんなに広いだなんて、無駄かと思ってたけど、こんな素敵な場所があるなら、悪くないのかな」


散歩のしがいもあるし、と鈴は軽く笑った。

これだけの景色は、久しぶりに見た。


「こんな綺麗な花畑、最後に見たのは何時だったっけ……」


そう、それは確か……。

呟きながら記憶を手繰り、引き寄せた記憶の景色に目を細めた。


「…三年前……かな。…あの子が外の世界を見たがったから、とびきりの景色を探したんだ」


思い出して、鈴は静かに瞼を伏せた。

そう、あの時も季節は春。色とりどりの美しい花が、この場所のように咲き乱れていた。


「…あの子は、プリムローズを気に入ってたっけ…」


白、黄色、赤、…いろんな色があるけど、ピンクが一番好きだな。

そんな風に笑っていた顔を思い出し、鈴は微かに表情を歪めた。

突然黙り込んでしまった主人の様子を心配したか、傍らを飛んでいた使い魔がそっとその頭に下りる。くし、と鼻先をつむじに押し付けられ、鈴は瞼を上げた。


「……あぁ、うん、大丈夫。ちょっと思い出していただけだから」


あの日の景色は綺麗だった。そして、今の景色も綺麗だ。


「プリムローズ、部屋に持って帰りたいけど、手折るのは可哀想だな」


傷付け、部屋に持って帰り枯らしてしまうよりも、花だって此処で仲間たちと咲いていた方が幸せだろう。

それに、プリムローズの花言葉は『希望』。『希望』を手折るなんて、そんな事は出来ない。


「…きっと此処で咲いてるのが、一番綺麗だもんね」


さわ、柔らかに吹いた東風が、立ち並ぶ花を、鈴の髪を揺らして行く。

さらさらと首筋を擽る自らの猫っ毛を押さえていると、耳元を霞めた風の中に笑い声を聞いたような気がした。


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