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スメラギ
4

『──新入生の皆さんには……』


淡々と挨拶を続ける翡翠を見つめていたら、ふと壇上の彼と目が合った様な気がした。

ぱちぱちと幾度か瞬きすると、無表情だったその顔が雪解けたように綻び、ふわりと微笑みかけられた。


(あっ…)


「──キャァッ、会長様、今此方を見て笑わなかった?」
「きっと僕に笑って下さったんだよ!」
「違うよ、僕だって!」
「バカじゃないの、そんな訳ないでしょ!」


途端に再び煩くなる会場内。

直ぐに表情を引き締めた翡翠は、もう一度通る声で「静粛に」と注意した。

ざわめきが静まり、翡翠が挨拶を再開すると、騒音に眉を寄せていた雅弥が隣の鈴たちにだけ聞こえる声で囁く。


「…今、会長此方見てなかった?」
「見てた……気がする」


答えたのは御門。鈴は彼らの声が聞こえているのかいないのか、ぼんやりとステージ上を見ている。


「…鈴?」
「どうした?」


二人が両側から囁けば、ぱちぱちと瞳を瞬かせた鈴は、ふるふると首を振った。


「ううん。…ちょっと、びっくりしたの」
「びっくり?」
「うん、びっくりした」


首を横に振った後は、こくこくと首を縦に振って頷いた。

妙な様子の鈴に、冗談めかして御門が訊く。


「何、鈴。会長に見惚れでもしたのか?」
「ううん、…いや、うーん? びっくりしたから、そうなのかも」
「えっ、本気で?」


鈴が? と言わんばかりに目を見張ったのは、雅弥。訊いた御門もギョッとしている。

鈴はと言えばまだやや惚けたような様子で、驚く二人に首を傾げた。


「だって、凄く綺麗だったから」
「…………」


真っ直ぐに言う鈴に何と返したら良いのか分からず、二人は沈黙した。

一年席の後ろでそんな会話を繰り広げているうち、壇上の翡翠の挨拶が終わりを告げる。


『──在校生代表、生徒会長瀧沢翡翠』


一般席に一礼、来賓席に一礼、教員席に一礼した翡翠は、ステージを下りる前、もう一度此方を振り向いて小さく微笑んだ。

桜色の唇が、声を紡がずに言葉を形造る。


『──ま た あ と で』


「また、後で……」


翡翠としっかりと視線を絡ませた鈴だけがそれを読み取り、他の生徒たちは彼の笑顔を二度も見れた事に嬉しそうに喚声を上げるのだった。


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