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スメラギ
入学式

* * *



灯燈の校舎は貴族の邸宅であり、学生寮は城だ。…そして、講堂は。


「オペラ座だね!」
「は?」
「え?」


至極楽しそうに手を叩いた鈴に、両隣にいる御門と雅弥は目を丸くした。

鈴の中では昨日から継続している話題なのだが、二人に取っては意味不明のフレーズだ。が、昨日の話を聞いていた翡翠が此処にいたとしても苦笑いをするのみだろう。

しかし周囲のリアクションなど露程も気にしていない鈴は、甘そうな飴色の瞳を輝かせながら楽しそうに講堂を見渡した。


「舞台も広いし、三階まで席があるし、バルコニーやボックス席まで…。魔笛とか椿姫とか似合いそうだね」
「いや、今からやるのは入学式だけど」
「歌うの? オーケストラとかやるの?」
「やる訳ないだろ!」


わくわく顔の鈴に、思わずツッコミ。御門は疲れた様にため息をつき、雅弥は苦笑いした。

否定してもなお楽しそうな鈴を促し、クラスごとに割り振られた席に座る。


「わー、椅子もふかふかー。…オペラグラスとかないのかな?」
「少なくとも、俺らは貰わないね」
「…貰うヤツなんかいるかよ」
「特別席の生徒会とかは貰うかもよ?」
「んな馬鹿な」


冗談とも本気ともつかない笑顔で言う雅弥に、御門は肩をすくめる。

二人の会話が分からない鈴は、ぱちぱちと目を瞬かせた。


「特別席?」
「鈴がさっき見てハシャいでたバルコニーのボックス席は、生徒会役員とか各委員の委員長とか、一部のミスリルクラスの専用なんだよ」
「特権の一つであるのと同時に、騒ぎなんかが起こるのを防止してるんだろ」


隔離しときゃ、下手に近付こうとする馬鹿も減るからな。続けた御門の言葉に、鈴はふーんと頷いた。


(お兄ちゃんも翡翠先輩も、彼処にいるんだ。…いいなぁ)


特等席のような其処を何となく羨ましがっていると、左隣に席を取っている雅弥がバルコニーを指差した。


「ほら、噂をすれば生徒会役員の御登場だよ」


鈴が雅弥の声に振り向くのとほぼ同時に、オペラ座もとい講堂全体からやかましい程の喚声が上がった。


「キャーッ!」
「皆様相変わらず素敵ー!」
「カッコいいー!」
「此方向いて下さいーっ!」


「…何、コレ」


つんざく様な不快な声に、鈴は思わず耳を両手で覆った。
これが女の子ならば黄色い喚声と言って良いのだろうが、此処は灯燈学園の男子部、黄色と呼ぶには淀み過ぎている。

珍しく率直に不快を露にしている鈴に、同じ様に耳を塞いでいる御門が説明してくれる。


「…顔が良いヤツは此処ではファンがつく、って言っただろ? 生徒会は特級の美形揃いだからな」
「…はぁ…」


御門の言う理由は分かったが、理解は出来ずに鈴は曖昧な声を出す。

まぁ確かに、昨日色々世話になった生徒会長の翡翠は、文句無しの美形だったが。学校全体でこんな騒ぎになる程なのか。最早異次元だ。


「…でも、翡翠先輩くらい綺麗だったら分からないでもない……かなぁ?」


小首を傾げながら呟いた鈴の言葉は、まだ続いていた黄土色の喚声を耳を塞いでやり過ごしていた二人には届かなかった。


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