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スメラギ
4

鈴は教卓から椅子を引っ張り出し、そこに座る。


「敢えて教卓からいくんだ」
「キャスター付きって面白くない? ほら、くるくる回るー」
「……お前、それで目回ったとか言うなよ?」


くるくる、と幼子のように椅子を回して遊ぶ鈴に、御門が軽く肩をすくめて言う。

視界と世界を揺らしながら、鈴が間伸びした声で答えた。


「…もう回ってきてるー」
「止めなさい!」


ツッコんで、御門はそのまま鈴が座る椅子の背持たれを掴んだ。

回転を強制的に止められた鈴は、頭をぐらぐらさせながら言う。


「御門君って、見掛けによらず世話焼きだよねぇ」
「見掛けによらず、ってお前には言われたくねぇよ」


ふらふらと頭を左右に揺らしながら笑う鈴に、御門は疲れた様にため息をつく。

そんな二人のやりとりを見、雅弥は愉快そうに笑う。


「御門はこれでかなりの苦労性だからね。お人好しだから、相手の世話も色々焼いちゃうし」
「…主に誰のせいで苦労してるんだろうなぁ?」
「さぁねぇ?」


嫌味ったらしく上がった御門の語尾にも動じた様子なく、雅弥はくすくすと笑う。

御門は多少不満げだが、口喧嘩には発展させずにそこで一度ため息をついた。


「…鈴、大丈夫か?」
「んー、大分戻ってきた。くらくらするのも面白いよねぇ?」
「そうか?」


鈴は鈴で、マイペースに回る視界を楽しんでいたらしい。

ぽけーっと天井を見上げる様に、御門は肩をすくめる。


「…子供…」
「なのに、学年首位。鈴ってホントに面白いね」


呟いた御門の言葉に続け、雅弥が言う。
御門は微かに眉を上げ、鈴は首を傾げた。


「御門君も愛紗君も雅弥君も、みんな面白いよ?」
「それは、ありがとう?」
「…褒められてるのか?」


態となのか本気なのか判別が付き難い鈴の言葉に、二人はやや複雑な表情で応じた。

対する鈴は、ひたすら楽しげに笑う。


「“ガッコウ”、これから凄く楽しくなりそうで良かった」
「…そういえば鈴って…、」
「はーい、みんな席に着けー」


鈴の言葉にふとした疑問を思い出した御門が口を開きかけるが、その途中で教師が教室に入ってきてしまった。

また後でな、と口にした御門は、自分の席へと戻る二人を見送る。

座っていた椅子を教卓に戻しに行った鈴を、教師もまた物珍しそうに見つめる。


「おはようございます、先生」
「あっ、…あぁおはよう」


にこりと笑って言った鈴に、彼もまた一瞬の間の後に言葉を返す。好奇心は隠しきれていないが、生徒たちのそれに比べればまだマシか。

鈴のすぐ後ろの席である雅弥が腕を引いて、鈴を教師から遠ざける。


「……このクラスはまだ安全圏。でもあんまり油断しちゃ駄目だよ」
「うん」


囁くように小さい雅弥の声に、鈴もまた小さく頷く。

ちらりと振り返ると、まだ若く整った容姿の教師が二人を見ていた。


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あきゅろす。
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